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男同士で更衣室の着替えなら、みんな同じ様な格好だしそんなことも思わないけど、いま目の前にいるのは、女性だ。女性の前でこんな心もとない格好になるなんて。
うぅ……こんなことなら着物の着付けぐらいちゃんと習っておくんだった。って、女物の着物なんて着る機会そうないだろうけど。
「それじゃあ着付けていく。先に補正用のタオルを巻くぞ。…………本当に細いな?」
せっかくかき寄せた長襦袢の前をあっけなく開いて、Tシャツと裾よけの結び目ラインが真ん中にくるようにタオルを丁寧に巻きながら阿曇さんが顔を顰める。
中学の頃は女子から羨ましがられたり、妬まれたりしたことはあったけど、顔を顰められたのはこれが初めてだ。そんな細いかな……。
結局タオル三枚を重ねて巻かれ、開いた長襦袢を軽く合わせた阿曇さんが、後ろ襟を掌が入るくらい引いて整え、今度は前をきっちり合わせてから細いゴムベルトみたいなもので留めて、長襦袢のシワを綺麗に伸ばした。
襟のやつはわかったけどこんな細いベルトを使うのか……。白い太めの帯を取ってたるみのないように巻いてから、たぐまった生地を下に引いて、最後に襟元をピシッとして、
「これで下地は完成だ」
と一息に言った。
さすが、手慣れている人が着付けるだけあって崩れもないし、ちゃんと身動きも取れる。
「苦しくないか?」
「大丈夫です。すごいですね、パッパッてやっちゃうの」
「慣れているからな。次は着物だ。少し重みのあるものだから、今みたいに俊敏には動けんぞ」
「あ、はーい」
小花柄の生地を肩から羽織らせて、やっぱりテキパキと着付けていく。
おはしょりっていうのかな……少し生地の長さを調整する部分を作ろうとした阿曇さんが、ハタと手を止めた。
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