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第一話:シンユウからの頼みごと
都内でも指折りの、超がつくほどの高級洋菓子店・璃宮庵が誇る、ひとつ980円もするバニラカスタードプリン。これがたいそう美味しいともっぱらの評判で、オレもまだ一回しか食べたことがない。
甘いものに目がないオレは、「璃宮庵を凌駕するほどのプリンを食わせてやるから!」──そんな誘い文句にまんまと負けて、彼の実家である〝弁当屋・大海原亭〟を訪れることになった。
太鳳はオレを自分の部屋に案内するなり、背負っていたリュックを畳んだ布団の上に放り投げ、押入れの中を探って座布団を取り出すと、畳の上に投げ置いて、
「まぁ座って座って。いまお茶とプリン持ってくっから!」
声高にそう言うと、ドタバタと派手な足音をさせながら階段を駆け下りていった。
母屋と店舗が一体になっている作りの家屋だけに、客商売をしてるのに騒音を出して大丈夫なのかな、なんて余計な心配が働く。投げ置かれた座布団を引き寄せて、その上に正座でちょこんと乗っかる。
中学卒業を境に友達の家に行くことはほぼなくなったから、こうやって学校帰りに誰かの家に寄ることはとても新鮮で、お決まりにエッチな本とか探したりはしないけど、自分の部屋と違うことが物珍しくて、つい部屋の中を見回してしまう。
タンスの上にはいくつかのトロフィーが並べられていて、壁には額縁に入れられた表彰状が飾られていた。そのどれもが剣道大会での優勝を称えるもので、彼が高校に入った経緯が、スポーツ推薦という事実にも納得がいく。
「どったの?」
栄光の証に視線が釘付けになっていると、いつの間にか戻ってきた太鳳が、テーブルの上に、お茶とプリンのカップと山盛りの唐揚げが乗った皿と佃煮の入った小皿を並べているところだった。
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