9人が本棚に入れています
本棚に追加
阿曇さんがオレの髪に櫛を通したり整えている間、なにもすることがなくて、結局、朔の着替えを視線だけで追ってみることにする。
保健室でさらしを巻いてきたっていっても、背中側から見る朔の体つきは普通の高校生とは思えないほど逞しくて、アスリート並っていうか……長年工事現場の雑用バイトをやってるだけあるっていうか。ひき締まり方が尋常じゃない。体脂肪率とは永遠に無縁そう。
体育の授業は受けに来るから、着替え自体は何度も見たことあるけど、こんなじっくり見る機会、そうないもんね。
「あー……やっぱ、やーさんいいカラダしてるわぁー。勝負してぇー」
ひとり先に準備を終えていた太鳳は、やっぱりやることがないのか、オレが座る椅子の脇に胡座をかいてどっかり腰をおろすと、心底惚れ惚れしたような声を上げた。
「太鳳、心の声がダダ漏れだよ?」
「だってよぉー、いいカラダしてっとおもわねぇ!? 背筋もいいけど、やっぱ胸板触りてぇー」
「でた。太鳳による朔限定セクハラ発言」
隣で大きなため息をつく太鳳をジト目で見下ろす。瞬間首が傾いてしまい「こら、動くな」──阿曇さんに強制的に頭の位置を戻された。いたたた。
なおも太鳳の嘆きは止まらない。
「しっぽ先生は滅多に相手してくんねぇしよぉー。あー、世間はオレっちにだけ冷たいぜ……」
「そりゃ四楓院先生は副顧問だし、いくら副部長とはいえ、ひとりだけ特別扱いできないでしょ? それに、太鳳よりも上の有段者なんでしょ? 万が一のこと考えたら相手にしなくて当然じゃない?」
正直、大の大人が生徒相手に本気になるとは思えない。特に、四楓院先生みたいに武道の心得や作法を重んじる人ならなおさらだ。
「いやいや! やっぱ強いヤツとは勝負して、勝ってナンボだしな! 負けても挑んだことがオレっちの糧になるっつーか!」
「死ななきゃ安い?」
「そうそれ!」
なにをそんな生き急いでるんだか……。
思わず呆れ顔になってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!