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「コイツにちょっかいかけたらシメんぞ」
四楓院先生に襟元の生地を整えてもらいながら、朔がすかさず牽制してくる。
視線の先は先生の手元を追ったままなのに、ちゃんとこっちの話は聞いてたのか……いや、朔のことだから、反応したのは〝しっぽ先生〟ってキーワードのところだけだな。まったく、とんでもない地獄耳だ。
「ちょっかいかけなきゃ勝負できねぇぜ!」
「よその奴とやれ」
四楓院先生の指示に従って、体の向きを変えたり腕を挙げたりしながら、朔は太鳳を睨みつける。
睨みつけられて怯んじゃうのかと思ったら、ぜんぜんそんなことない。太鳳も負けじと朔を睨みつける。
「だーかーらー! しっぽ先生が一番強ぇんだって! 部長も強ぇけど、しっぽ先生はさらに強ぇんだかんな!」
「そもそも太鳳は強いほうなんじゃないの? 部屋にたくさん賞状とかトロフィー置いてあったじゃない?」
朔に食って掛かる太鳳を視線だけで見下ろして、オレはやや呆れ顔になった。太鳳だってじゅうぶん強いと思うんだけどな? 自分が挑むより挑まれる機会だってありそうだけど。
「あんなのある程度強きゃ誰だって獲れるぜ? スケさんでもヨユーじゃね?」
「そんなわけないでしょ……」
有段者と凡人を一緒にしないでほしい……。
剣道は一つ段を取れたとしても、上位段を取得するのがものすごく大変だって、剣道部にいた中学の同級生に聞いたことがある。
ただ腕があれば取得できるわけじゃなく、段位取得からの年数も関係するとか。気の遠くなるような話だ。
「大海原は、純粋に剣道が好きなんやな。気持ちわかるわ、俺もそうやもん。正直、大会でいい成績残そうとかそういうんは二の次で、強い相手と勝負して、自分の腕がどんだけ通用するか、試したいのはあるよなぁ。せやから、必死に稽古もするし、それが功を奏して大会でもいい成績残せたりするんよな」
太鳳の台詞を聞きながら四楓院先生が「ふはっ」と楽しそうに笑う。
こういうのは同じ性質を持ってないと分かりあえない部分なんだろうな。
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