第一話:シンユウからの頼みごと

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「ほんと、剣道一筋って感じ。太鳳らしいっていうか」 「それっきゃ取り柄ないかんねー。あぁ、そんなかしこまんなくていーって! 足崩せよ、どーせあとで痺れんだからさぁ。ほいっ、プリンおまちどー! ナントカ庵よりぜーってぇウマイから!」  矢継早に言いながら、太鳳がプリンの入ったカップとコンビニで貰える透明のスプーンをオレの方に押し出した。  クリームが乗ってるとか焼き目がついてるとか、そういうのは全然なくて、表面は王道のクリーム色、底のカラメルは層薄め。冷蔵庫から出してきたばかりなのがわかるほど冷えている。 「あ、お茶お茶」  コトリと置かれた湯呑から立ち昇る湯気。  プリンに緑茶って組み合わせ的にどうなんだろう。なんていうか、おばあちゃんちみたいな組み合わせだな……って、ご馳走になるのに、そんなこと思っちゃいけないか。オレはスプーンを手にとって、プリンの表面に先をつけるとそのままゆっくり掬い上げた。思ったより固い。  ひと口含む──パッチンプリンみたいな、舌で潰すと液状化するような(なめ)らかさじゃなくて、どっちかと言えば、ねっとりというか、もったりというか、濃厚な生チョコみたいな……。  甘さはそこそこ、(かなめ)になるはずのバニラは香料感がすごい。これはこれでアリなんだろうけど、正直好みがわかれそう。璃宮庵のバニラカスタードプリンを凌駕できるかって言ったら、たぶん無理だ。  口の中のもったり感をもてあまして(たま)らず湯呑に手を伸ばす。  お茶を(すす)っていると、 「ウマイだろー!? かーちゃんのお手製なんだぜ! うちの店の看板デザートいっこ70円! 安い!」  好反応と受け取ったのか、爛々(らんらん)と目を輝かせて言う。オレが内心なにを思っているかも知らずに。
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