悪魔のような女

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麻也子が派遣社員をしていた渋谷アドの営業部長波川嵐士40歳からLINEが来た。「明日20時円山町ホテルマリオン」波川がラブホテルに誘うLINEを送ってきた。現地集合だ。 波川と麻也子は不倫中だ。 「生理なんだけど。」 麻也子はすぐにLINEを返す。 波川は元バンドマン。 ロン毛にヒゲでちゃらい、参議院議員の波川悦郎70歳の息子でコネ入社だ。 「タオル引けば大丈夫。」 波川はラスカルの可愛いスタンプを送って来た。 麻也子はレアステーキを食べ終わり、モーゼルを飲み終わると、フラフラしたつぐみが立ち上がった。 つぐみはフィレステーキを半分残し、ワインも少し口を付けただけだった。 つぐみが先に会計し、麻也子も続いて店を出た。 人気がない路地裏だった。 つぐみは店の前で涙を流しながら、フラついていた。 つぐみはヒールが石ころにつまづいて倒れた。 麻也子は転んだつぐみに気づいて近寄った。 「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」 丁寧な口調で麻也子はつぐみに尋ねる。 「ありがとう。大丈夫、私は大丈夫。」 つぐみは涙を流していた。 「だって、泣いてるじゃないですか。 大丈夫じゃないでしょ。」 麻也子はつぐみにハンカチを手渡した。 「あーあ。フラれちゃった。 彼と別れたの。ツライわぁ。」 再び涙を流すつぐみ。 「だから、泥酔してたんですね?」 「飲まなきゃやってられないわよ。」 吐き捨てる口調のつぐみ。 「あの店、私好きなんです。」 「私、立教の学生の頃から通ってた。 淋しかったから、今日は来た。」 つぐみにミネラルウォーター を手渡す麻也子。 「ありがとう。」 つぐみは蓋を開け、半分飲んだ。 「タクシーで送りましょうか? 千鳥足でフラフラしてるし。」 麻也子はニャっとしながら、笑みを隠してつぐみに優しく語りかける。 「お願いしようかなぁ。 飲み過ぎちゃったし。」 つぐみはウトウトしている。 麻也子は大通りに出て、みなとタクシーを止めた。 つぐみを乗せ、麻也子も乗り込んだ。 「どちらまで。」 70前後の痩せたタクシー運転手が尋ねた。 「どちらまで?」 つぐみに麻也子は尋ねた。 「芝公園。」 つぐみはか細い声でボソッと言った。 「芝公園お願いします。」 麻也子はタクシー運転手に伝えた。 池袋から芝公園までかなり距離があり、つぐみは完全に熟睡していた。 麻也子はスマホでつぐみのWikipediaや Twitter、インスタをチェック。 つぐみのインスタから別れた彼氏はカンヌグランプリの天才映像作家米澤ハル30歳だと分かった。 明王堂のエリートコピーライター、恋愛小説家、高学歴、高収入、ハイスペックな彼氏、そして、美貌。 大庭つぐみは全てを持っている。 方や私は、フリーランスの冴えないコピーライター、池袋の場末のホステス、深夜のコンビニバイト、安いラブホで絶賛不倫中。 私は最下層の人間だ。 麻也子は歯軋りした。 芝公園近くでつぐみは目を覚ました。 麻也子はミネラルウォーターを渡した。 つぐみは残りを飲み干した。 「フランツホテル曲がった左手のマンションお願いします。」 つぐみはタクシー運転手に伝えた。 「了解しました。」 運転手は車を走らせる。 タクシーから降りるとつぐみのマンションは有名建築家青沼聖司設計の高層ビルのようなタワマンだった。 麻也子もつぐみといっしょに降りた。 麻也子は紫色のストールを被る。 「部屋まで送って行きますよ。」 つぐみは部屋番号を押した。 麻也子は4ケタの数字をスマホにメモした。エントラスが開き、たまたまコンシェルジュが不在だった。 麻也子とつぐみはエスカレーターに乗った。 つぐみは41階のボタンを押した。 高速で41階へ上がっていく。 近未来のSFのようなメタリックなエレベーターだ。 つぐみはバーキンから鍵を出し、ドアを開けた。 玄関につくなり、倒れた。 麻也子はハイヒールを脱がせ、つぐみをリビングのソファーに運んだ。 白を基調とした高級感ある部屋。 広い部屋には、広告賞のトロフィーや盾がたくさん並んでいた。 つぐみのベストセラーの恋愛小説である赤い情熱青い情熱が本棚に並んでいた。 その時、麻也子はつぐみに強烈な嫉妬という名の殺意を覚えた。
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