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2.お金のこと。
その夜、社長がやってきた。縁側で倒れているわたしを見つけ「死んでる」と思ったらしい。念のため体をゆすってみたら目を開けたので「死んでない」と思ったらしい。
「そう簡単に死なれちゃ困る」
と社長は言った。そして死にかけたわたしの事情を知って、上寿司の出前を五人前とってくれた。社長が二人前、わたしが三人前食べた。ようやく落ち着いたわたしの前に、社長は一万円札を何枚か置いた。
「足りなかったら言え」 働こうと思うのでお金はいらないです、と言おうと思ったのだけれど言えなかった。
二回した。
そして山茶花の垣根に囲われた庭を見る。
名前の知らない木々が日光を浴びて生えている。カラー写真の載った最新版の植物図鑑を買おうかな、と考える。縁側に座ったわたしは体をひねり壁に引っ掛けたピンクファーのハーフコートを見る。社長の置いていった何枚かの一万円札はそのまま四つに折ってハーフコートの内ポケットにしまいこんだ。「好きなものを買え」と社長は言った。
暇つぶしに散歩に出て、近くに図書館があることを知る。
そうだ、図書館で最新版植物図鑑を借りよう。図書館にはたくさんの本があってしかもみんなタダなのだ。これまで小学校の図書室にしか入ったことのないわたしは随分と損してきたわけだ。まぁ本を買って読もうなんて思ったことはないのだけど。
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