1.縁側にて。

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 空は青い。小さな雲がかたちを変えながらいくつも通っていく。こういうとき子ども向けの絵本なんかでは雲がソフトクリームに見えたりあんぱんに見えたりするんだろうけど、子どもじゃないわたしにはいくらおなかがすいていてもそんなものには見えない。雲は雲で白く薄い筋になって、または固まりになって、浮かんでいる。……。シマモトさんの禿頭に残った白髪のようだ。シマモトさんはシマモトマツジと書かれた名札が縫いつけてあるアディダスのジャージを着てこの家の向かいのカーブミラーの下にいつも座ってる。よく見るとアディダスはアディドスで、袖とズボンの三本線の真ん中がピンク色だったりする。シマモトさんはここの三軒隣りから朝七時から出てきてこの庭の前を通り、向かいのカーブミラーの下に座る。時々立つ。立ち上がって歩き出したり、歩き出さずにそのまままた座ったりする。今日もシマモトさんは座っているのかな。ああ、あの雲はもしかしたらシマモトさんの腋毛かな。耳毛かな。陰毛かな。やっぱりわたしはいたいけな子どもと違うので、大したたとえも出来ないし、してもじいさんの陰毛の想像などしてしまう薄汚れた大人なのだ。白髪の人って全身白い毛なのかな。もうやめよう。
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