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普通に変な服を選んでやればよかった──と、心の中で桐谷は悪態をつく自分と徒党を組みながら試着室の前でキラキラと照れ臭そうに笑う峯を眺めた。
いつもは無地のパーカか、スウェットシャツといった峯は今、地はベージュに近い茶色に、淡いパステルピンク色の大きなダイヤ柄の薄手のオーバーニットのカーディガンを着ていて、いつもより襟の空いた白のインナーシャツで一気に顔まわりが明るく見えた。
初々しくて、純粋で──店員に褒められ素直に喜ぶ峯が悔しいくらいに──
「可愛いよ」
そう微笑む桐谷に一瞬言葉を失い峯は真っ赤な顔で「褒め言葉じゃないってば!」とカーテンを勢いよく閉めた。
──今のは本当に褒めたのになぁ、と桐谷は首を傾げた。
そして、峯は買ったばかりの服のタグを店員に切ってもらい、それに着替えると嬉しそうに桐谷と並んで歩いた。
「明日着るんじゃなかったのか?」
「なんで? 虎羽が言ったんじゃん。土曜に会う服を買えって」
「いや、だってそれは……」
峯が桐谷の袖の裾を摘んで引っ張り、わざと軽く肩をぶつけた。
「俺がこうしたかったんだ。だから叶って良かった」
少し赤くなった頬をした峯がわざと桐谷から視線を外しながら照れ臭そうに笑う。
その赤くなった耳たぶをいますぐ齧ってやりたい衝動に駆られながら、桐谷は眩しそうに峯の小さな後頭部を眺めた。
「ねぇ、虎羽は何か買いたいモノとかないの? それかお茶する?」
「行きたいところならあるよ」
「えっどこ?」
桐谷が峯の耳元ギリギリまで口を寄せて小さく囁くと、峯は一気に赤くした顔のまま頬を膨らませ、呆れるように桐谷を睨んだ。
「虎羽って折角の土曜の太陽に対して悪いとか思わないわけ?」
「インドア陰キャのくせによく言う」
「っとに、減らず口!」
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