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level.10
「俺、自分が陰キャで恋愛偏差値低いのは百も承知だったけど、虎羽って俺が思ってたより────……」
「おい、なんで言葉を選ぼうとしてんだ」
腕の中の峯からはすっかり悲しい涙は消えていて、桐谷の胸に頬を寄せながら安心したように微笑んでいる。
「へへ、虎羽が好き──」
肩をすくめて照れながら目を瞑る峯を見て、桐谷は簡単に陥落する。
──ああ、くそ。
桐谷にはわかっていた──。
いつか、近いうちにいつか──、柚莉愛と自分の関係を後悔する日が来ることを。
腕の中の笑顔を歪めて泣かせる日が来ることを──
それを一度でも見てみたいと思った浅はかで愚かなあの時の自分を呪うことを──。
「なあ、凛……」
「なに?」
「もし、俺と柚莉愛が崖から落ちそうになってたとしたらどっちを助ける? 絶対に一人しか助けられないとしたら……」
「えー? 何その質問、非現実すぎっ、てゆうかなんか、虎羽らしくない質問……」
「いいから、答えろよ」
肩を揺らされて峯は困惑しながら少しだけ逡巡し、想像してみているのか顎に人差し指を添えながら宙を眺めている。
「ん〜、──柚莉愛ちゃんかなぁ……」
夢を壊された乙女みたいに桐谷は簡単に傷付いた。そんな自分に呆れて笑いが込み上げそうになった唇が次の瞬間固まる。
「──それで俺も虎羽と一緒に崖から飛び降りる」
下から自分を見つめる丸い瞳と真っ直ぐ目が合って、
桐谷はなぜか泣きそうになった──。
「──やっぱ、お前には敵わないや……」
そんな情けない顔を見せたくなくて、隠すように桐谷は峯を強く抱きしめた。その身体が中から強く抱き返してくれる愛しさを噛み締める。
「虎羽。ねぇ……続き、しよ?」
こしょこしょと腕の中で可愛く囁かれ、その声が薄ら届いた鼓膜がなんだかくすぐったい。自然と桐谷の口からは笑みが溢れる。
「ホントお前ってば──百点満点」
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