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 桐谷と柚莉愛の出逢いは一年前だ──。  その頃柚莉愛はまだ事務所の研究生で、デビューすらしていなかった。  だが、事務所には所属していたのでテレビや雑誌にはほんの少しではあるが呼ばれることがあり、その時に雑誌モデルであった桐谷と知り合ったのが二人のはじまりだ。  桐谷は当時、柚莉愛と同じく高校三年生。出版会社にいる親戚に頼まれて、割の良いアルバイト代に釣られ、モデルの仕事を手伝っているだけにすぎなかった。桐谷は金で動いただけの、この業界に一切何の興味もない男だった──。  柚莉愛はとにかくその点が気に入ったのだ──。  全く自分のことも知らなければ興味も持たない。  一緒に撮影している間、野暮な質問をしてくるような頭と下半身が軽そうなこの世界でよく遭遇しがちな男とは違い、このつまらない撮影時間が早く終わりますようにと常に心の顔に書いてあるような、どこまでも低温な男だったのだ──。  柚莉愛は18歳になったら今までこっそり家で描き溜めていた漫画の構想を同人誌で形にすることをずっと夢に見ていた。  本当なら自分が即売会に赴き、活動するつもりだったが、当然ながら事務所に猛反対され、ネットでこっそりやるべきかどうするかをずっと考えあぐねていた。  そんな時、桐谷は現れたのだ──。  金に釣られて頼まれた仕事を淡々とこなす桐谷は、柚莉愛にとって最高の鴨だった。  同人誌の即売会で売り子をやってほしいという素人には受け入れ難いマニアックな頼みに、当然桐谷は露骨に嫌な顔をして「そういうのは面倒だ」と即断った。  だが、柚莉愛はそこへプラス条件をつけたのだ──。  自分と金でセフレにならないか、と。  柚莉愛にとって桐谷との行為は全て漫画の資料に過ぎなかったのだ。  本当に欲しいのは行為でなく、桐谷の引き締まった肉体であり、それは骨格からはじまり、筋肉のつき方、そして普段はまじまじと観察することが不可能である男性器であったり──。  体位の資料のために完全空気無視でいきなり写真を撮り出す柚莉愛にさすがの桐谷も最初は呆れ返っていたものの、一年もすればすっかり慣れてしまい。柚莉愛が写真を撮るのに忙しい時は桐谷自身も裸のままスマホをいじっているような始末だ──。 「いてぇな! お前何してんだっ」 「尿道プレイってしたことある?」 「ねぇわ、つかこの歳でやってるやつまずいねぇだろ」  柚莉愛はスタイル抜群な自身の身体を何ひとつ隠すことなく、撮影用タブレット片手に桐谷の男性器を乱暴にもう片方の手で弄っている。相変わらずの滑稽な絵面だ。 「お前、俺のが使いもんにならなくなったら賠償金請求するからな、もう少し大切に扱えよ」 「ダメになったらまだアナルがあるじゃん! 気持良いらしいよ。あっ、今度なんかヤる? 録画していい?」 「マジでお前……女としてっていうより、もう人として終わってるからな」  もちろん二人のこの謎な関係は事務所の人間どころか他の誰も知らない──。  これは謎の価値観と利害関係が一致した二人だけの秘密であり、桐谷にすれば相手がアイドルである柚莉愛なことは大した問題ではない。 「でもさぁ、仮に3P(さんピー)するとしてもアンタみたいに融通のきく、口の硬い男いないよねぇ〜」 「お前のいう3Pって俺が掘られるやつのか、流石に死ぬわ」 「他に何があんのよ」 「てか普通はその他が主流なんだわ」  目の前のアイドルが自分を危険に晒そうとしている恐ろしい妄想発言をしてる中、ふと桐谷は昼間に会った同級生を思い出した──。 「口から泡吹いて倒れるやつなら知ってるな……」 「は? 何そのとんだ純情ボーイ」
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