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それじゃあ、何の為に私の前に……?
「それは、その、えっとですね……」
彼女が急にばつが悪そうに顔を顰めて頭を掻いた。さっきの無愛想な顔が嘘のようだ。本当は表情が豊かなのだろうか。
「…… 私今喋ってないわよね? 」
「ある程度ならわかるんですよ」
元々貴女はわかりやすいですから。
それは、とても小さく少し寂しそうな声だった。
こんな綺麗な人に会ったことがあるなら覚えている筈。どうしてこの人は、私を知っているような口ぶりで喋ったのか。
「まぁそんなことはどうでもいいんです。よかったら少しだけ、お話ししませんか? 」
そう言って彼女は私のベットへ、ぽすりと腰掛けた。ふわりと花のような甘い香りが鼻腔をくすぐる。心地よいこの香りを何処かで嗅いだことがあるような気がした。
どこか懐かしい、不思議な感覚。モヤがかかったようで何一つ思い出せない事ががもどかしいと思った。
「全然どうでもよくないと思うんだけど、病室にいてもやることもないし。いいわ。質問攻めにしてあげる」
たった一人の病室は静かで退屈だった。
生きることを、放棄してしまいたいと感じるほどに。
彼女が現れたのも何かの運命だと思った私はもうこの世の人間ではなかったのかもしれない。
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