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それは季節的には少し早い、雪が降った日のことだった。 「見てください!雪ですよ!!! わぁ、私触ってみたかったんです! 」 病院の起床時間よりも前に、我慢が出来なくなったのだろう。ゆまがカーテンを容赦なく開けた。 「まぶし……」 そのままガラッと窓を開けると美しい容姿らしからぬ格好で窓枠に足をかけてふわりと飛び降りた。 「え、ちょっとここ三階よ⁉︎ 」 慌てて立ち上がろうとするも身体がいうことを聞かない。 しかし、私が思っていたようなことは起きなかった。ふわりと、ゆまの身体が浮きそのままゆっくりと地面に降りていく。 「そっか、ゆまは死神だったわね……」 私の心配をよそにゆまは楽しそうに、雪だるまをせっせと作り始めた。 「見てください!こんなに沢山雪があります!これなら雪だるま作り放題ですね!!」 ある程度は理解したつもりだったがここ数週間一緒に過ごしてきて、ますますの事がわからなくなってきた。大人びた表情や言動をする時もあれば、今みたいに全力で子供みたいはしゃぐ時もある。どちらもゆまであることに違いないはずだか、私には何処かちぐはぐに見えた。 しばらく楽しそうなゆまを見つめていると、彼女が突然顔をあげてこっちを見上げた。 そして作ったのであろう小さな雪うさぎを二つ持つと、ふわりと浮き上がって窓枠に腰掛けた。 「私と貴女みたいで、可愛いでしょう? 」 そう言って大事そうに雪うさぎを撫でた。 小さな雪うさぎは木の実だろうか、ゆまと同じ黒曜石のような瞳がつぶらに輝いていた。 どろりと溢れたのは、黒い感情だった。 「ねぇゆま、私は貴女なんかじゃないわ。 よ」
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