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「一緒に電話してみるか?」
「…颯ちゃんと?」
「そう。今でも、今度でもいつでも」
全く急かす様子はない颯ちゃんの声が耳に届くとともに、彼に触れている背中の左半分からは低く響いてくるようだ。彼に頭まで凭れてしばらく考える間、颯ちゃんは何も言わず時折私の指先を撫でていた。
「電話して…何て言おう…」
「言いたいことを言いたいだけ言えばいい。大切に思う娘の言葉を悪いように受け止める人たちではないだろ?一度の電話で全て伝える必要もないと思うぞ」
「…うん、電話しようかな…」
私はスマホを目の前のテーブルに置きスピーカーにしてタップした。コール音の聞こえる中、颯ちゃんの脚の上で斜めに座っていたのを真っ直ぐ後ろ向きに変えられ、彼は私を後ろからぎゅっと抱きしめてくれた。
‘はい、良子?’
「うん、お母さん。元気?」
‘お父さんも私も元気。良子は?’
「大丈夫、元気だよ…あの、お母さん…」
‘なぁに?’
「ずっと黙ってて…ごめんなさい…私いま…」
‘良子。連絡はこうしてくれるし、私の電話にも出てくれるし無理しなくていいよ。元気だったら’
「うん…あのね、東京にいるの。三岡先生が法律事務所を紹介して下さって以前と同じ仕事してる」
‘…そう…ずっと?’
「うん…そこを出た日に紹介してもらったの」
‘そうだったの。仕事どう?’
「すごくいい人ばかりで…三岡先生のところより忙しいんだけど楽しい。できることも増えたし」
‘そうなの…嬉しい話を聞けたわ。三岡先生には改めてお礼しなくちゃ’
言ってしまえば何てことはないのかもしれない。私があれこれ気にし過ぎていたのか?それとも颯ちゃんに包まれる安心感の賜物か?
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