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ぽろん、ぽろん、、、廊下に響いていた『曲』にならない『音』。
「それでも君は、『星月夜』の名を知らぬと言うのか?」
「……はい。モリスでも同じことをお尋ねになりましたね。あの時も申し上げたのですが、そのような曲名には聞き覚えがないのです。ディートフリート様がケグルルットの屋敷に来られた日は、思いつくままに何曲も弾いていましたし……いったい、どの曲の事をおっしゃっているのか、わからないのです」
心当たりを弾いてみるけれど、どれも公爵が言うものとは違っているみたい。
「作曲者の名前とか、作曲された年代とか。お母様から聞いていませんか?」
「ああ、作曲者も年代も不明だ。知識のある者に調べさせたりもしたが、まず楽譜が存在しない。知る者もいない……まぼろしだ」
公爵は言う。
ケグルルットの屋敷でそれを耳にした時は、喉から胃が飛び出るほど驚いたのだと。
その出来事が、エレノアとの縁組を申し出るきっかけになった。
つまりは、公爵と私との縁を繋いだのが——『星月夜』だ。
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