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——エピローグ(最終話)
ディートフリートは卓上に置かれた書類の一部を指先でつまみあげ、もてあそびながら嘲笑する。
「牢獄上がりの罪人となった貴様の娘の行く末、強いて言えばその生死にも関わると思うが? 本当に破り捨てても構わぬのだな」
「まっ、待て! 待って、くれ……」
ディートフリートの手から紙の束をぐしゃりと乱暴に奪い取る。
伯爵は卓上のペンを取り上げて白髪を振り乱し、狂ったように名を綴るのだった。
『——その謀のことで、お願いがあります。ディートフリートさまの復讐に、妹のエレノアは何の関係もありません。伯爵が失脚すれば、エレノアもダメになってしまいます。勝手なお願いだとわかっています。だけどエレノアのこと……どうか見捨てないでください。エレノアは私のたった一人の妹。そして私は……エレノアの、姉なのです』
ディートフリートは想いを巡らせる。
愛する妻の、随分と不本意な願い事を引き受けてしまったものだと。
爵位を剥奪されたアルバロス・ケグルルットが、王宮警吏によって身柄の拘束を受けたのは、この数日後のことだ。私利私欲のため、現国王の密使として数々の暗殺や陰謀に加担した罪の深さに情状酌量の余地はない。
最愛の娘エレノアの帰りを待たずして、アルバロスは王宮の地下牢で数年を過ごし、その後誰の目にも触れることなく、執行人の手によって密やかにその命を絶たれた。
*
「リリアナ先生、さよ〜なら〜っ!」
元気な子供たちの声が部屋の出入り口に響く。
シスターアンヌの他に、今日はもう一人のシスターが稽古を終えた子供たちを迎えに来ていた。
「はぁい、さようなら〜っ。みんな〜っ宿題を忘れないようにね!」
リリアナ先生——つまりは私も、ピアノの椅子から立ち上がって子供たちに負けじと力いっぱい手を振って見せる。
「さて……と。私の大切な『お客様』が、そろそろやって来る頃かしら?」
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