3144人が本棚に入れています
本棚に追加
いえいえ、可愛いだなんて言ったら失礼よね? クリス本人にとってみればとても深刻なはず。深刻だからこそ何度も訪ねて来たのだろうし、彼の疑問の『真相』を知りたいと思う気持ちもよく理解ができる。
そしてクリスが、その悩みの先に抱えた想いはきっと……
『ピアノを弾いてみたい』。
「クリスっ……あなたの、その気持ちだけでじゅうぶんよ?」
シスターアンヌの背中に隠れるようにして立っていたのは、まだ十歳そこそこの、少し伸びた白金の前髪で顔を半分隠した少年。翳りのある表情をしているけれど、女児と見まごうほど綺麗な顔立ちをしている。
他の子たちとの折り合いが悪いというので、シスターアンヌにはみんなと鉢合わせにならぬようにと頼んだ。
「……あなたが、クリス?」
私は少し左に寄り、腰かけたピアノの長椅子を半分空ける。
「私はリリアナ。遠慮をせずに、ここにいらっしゃい?」
シスターに背中を押され、まだ遠慮の残る足取りでクリスがこちらに近づいて来る……私の脳裏に、今も色鮮やかに蘇る、あの懐かしい日の記憶が重なる。
———あなたが、リリアナ?
在りし日の、陽だまりのような、あたたかな声。
『私はエヴリーヌ。遠慮をせずに、ここにいらっしゃい』
最初のコメントを投稿しよう!