3144人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほらね? 今、クリスの心はちょっと悲しいの。みんなに心が空っぽだって、だからピアノが弾けないって言われて、悲しんでいるの。だからほら……悲しい音が出た」
大きな瞳を見開いて、クリスがハッと私を見上げる。
「あなたの心は空っぽなんかじゃない。ちゃぁんと、悲しんでる。悲しむことが出来る心は、喜びを感じることだって出来るのよ?」
私は、クリスの華奢な肩を抱くようにして、その両腕を鍵盤の上に乗せた。彼のまだ小さな手のひらを自分の手のひらで包み、指を重ねるようにして音を出す。
「ちゃんと弾けるようになるのは、もう少し先だけれど——…」
一緒に弾いてみましょう。
「辛い事に耐えて、心を空っぽにして、ずっと頑張ってきたクリスに。先生が《秘密の曲》を教えてあげる。あなたに幸せを運んでくれる、魔法の曲なの。だから誰かに教えたり、人前で弾いてはだめ……先生との、大切な約束よ——…」
最初のコメントを投稿しよう!