18人が本棚に入れています
本棚に追加
オーベリウスは後悔していた。
3年前に弟子を取ったことを。
オーベリウス・ラインハルトは魔術師だ。宮廷魔術師を輩出する名門貴族ラインハルト家の血を引いている。
ただし、血を引いている、というだけだが。オーベリウスは当主の愛人の子であった。
母親と街の一軒家で暮らしており、オーベリウスが学校に通えるほどの金が与えられ、慎ましくも不自由なく生活していた。
そんな折、母親が病に倒れてしまう。
幼いオーベリウスは時々家に来ては金を置いていくラインハルト家の従者に助けを求めた。しかし旦那様にお伺いしますと言われたきり、翌日になっても音沙汰がなかった。
オーベリウスは寝台に横たわる母親に"魔法の言葉"を唱えた。母親が、熱を出したオーベリウスに唱えてくれた"魔法の言葉"。頭の痛みも身体の熱さもちっとも引かなかったが、少しだけ楽になった気がしたものだ。
オーベリウスが小さな口でその言葉を唱えた途端、母親の身体が淡く発光した。荒れていた呼吸は落ち着き、伏せられていた瞼が開き、オーベリウスを驚きに満ちた顔で見ている。
ドサリ、と背後で音がした。
床に籠が落ち果物が転がる。母親と同じように驚愕の表情を浮かべた従者が、医師を伴って立ち尽くしていた。
それからオーベリウスの生活は一変した。
屋敷に迎えられ、魔術の訓練を受けることとなったのである。
オーベリウスには腹違いの姉と兄がいたが、そのどちらよりも優秀でめきめきと頭角を現していった。また、精悍な顔立ちと黒い髪、紫の瞳と歴代の宮廷魔術師に多く見られる特徴を持ち合わせていた。
それが、オーベリウスにとっての不幸の始まりだった。
愛人の子だということで冷遇され、それに妬みや嫉みが拍車をかける。当主や使用人は見て見ぬ振りだ。
さらに、表向きは食事や服など他の子どもたちと同じように用意され"優秀なだけでなく愛人の子まで分け隔てなく育てる慈悲深さ"を演出されていたし、オーベリウスもめっきり身体が弱くなった母親に何も心配ないと嘘をついた。
魔術の練習だと称してよく兄や姉に虐められた。服を焦がされ危うく火だるまになりかけたり、浮遊させた石で的当てしてくるのはまだ我慢できた。水を操り鎮火させたり、結界で防ぐことができたためだ。しかし母親が持たせてくれた護り石を砕かれた時には、魔術を使うことも忘れ掴みかかり取っ組み合いの喧嘩に発展した。
その結果姉の顔に傷をつけ、父親である当主からこっ酷く叱られた。
金を充分払ってやっているのに、こんな安物を持たせることはなかろうに、と母親まで侮辱され、オーベリウスは悔しくて仕方なかった。破壊された護り石は、母親の目と同じ紫色で、離れていても見守っているからと渡されたものだ。
そして、心に決めた。
誰よりも優秀な魔術師に、宮廷魔術師になって、皆を見返してやると。
最初のコメントを投稿しよう!