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「いいよ。それに私達は同級生じゃあないか。分からないところがあれば教えてあげるよ」
「でも俺は・・・貴方だけの・・・い、いやなんでもありません」
マーカスは顔を真っ赤にして俯く。
オーベリウスは微笑みながらマーカスに手を差し出す。
マーカスはますます赤色を深めて、うわぁ、と感嘆の声を漏らしながら握手した。
オーベリウスはそっと手に力を込める。
いつ反撃するとも分からない、獲物に逃げられぬように。
そして3年後、オーベリウスは後悔の中にいた。
マーカスは覚えが早く、授業の内容はもちろん分からないところをオーベリウスがどんなにゆっくり教えてもすぐ身につけてしまう。
オーベリウスのようになりたいと治癒の勉強もしており戦慄した。治癒の魔術を使うには人体の構造を知る解剖学や医学の知識もないといけないと、半ば勉強を妨げるよう参考書を山のように与えれば恐るべき速度で読破した。
さらりと流し読みしているだけに見えて、本質を理解するスピードが尋常ではないのだとオーベリウスは悟った。
命に関わることだからもっと隅々まで読むよう勧めたり、自分で考えてごらんと突き放すも、すぐ自分で答えを見つけてくる。オーベリウスが思いもよらなかった独自の見解も披露してくることもあった。
大学を卒業する頃には、マーカスは一流魔術師の仲間入りをしていた。
オーベリウスは年々焦りが募った。これでは自分に追いつかれてしまう、宮廷魔術師への道が閉ざされてしまう、と。
マーカスはそんな思惑など知らぬように、オーベリウスを先生と呼び慕っていた。あまつさえ、先生は丁寧に教えてくれるだのとても優しいだのと周りに吹聴する。
挙げ句の果てにはオーベリウスの自宅兼研究室である貸家にも頻繁に足を運び、身の回りの世話を焼く始末だ。
これに関してはオーベリウスにも責がある。マーカスを追い出すために、あれこれ用事を言いつけ続けた結果がこれだ。
オーベリウスは一日のすべてを資金稼ぎのための薬作りや診療、研究に充てている。自分のことで精一杯なのに、マーカスには自分の勉強をしつつも他人を気にかける余裕があるのかと妬ましく思う。
実際に、マーカスの書く論文は頻繁に学会で発表、引用され、彼の描く魔術式や陣は学術的価値が高く芸術的に美しかった。
宮廷魔術師も夢ではないだろうと言う声も高まってくる。オーベリウスは同業者に優秀な弟子を持って羨ましいと言われるたびに、気がおかしくなりそうだった。
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