森の泉

5/5
前へ
/5ページ
次へ
やがて泉のそばに一筋の朝の光が差し込んだ頃、セイはスッと立ち上がり、吸い込まれるかのように泉の中に入っていった。 「…セイ…?」 エルの呼び掛けに振り返るセイの目は、森に差し込んだ光があるにも関わらず、深夜の、光も無い泉の水のように深い青に見えた。 「…僕は留まる者、見守る者だ…。交代で訪れる、泉を見守る役目を与えられた一人…。エル、君は家族と旅を続けて…」 セイの静かな声が泉の周りに響く。 泉の水に浸かったセイの足は、陽の光が差した泉に溶け込んでいるように見えた。 「…セイ…」 エルはセイが何者だったのかを悟り、込み上げてくる寂しさと悲しみを必死に抑え込んだ。 「ようやくわかったんだ、なぜ僕がここから離れられなかったのか…。ごめんね、一緒に行けなくて…」 消えるようなセイの寂しげな笑顔に向かってエルは叫ぶ。 「…きっと、また来るわ!!そうしたら、またセイとたくさんおしゃべりをするの!それまで、セイは泉を見守って!私はお客さんに楽しんでもらえる芸ができるようにがんばるから!!だから…」 「…またねエル、きっと……」 セイは少し笑って頷き、その姿は泉に溶けるように消えていく。 「またね、セイ!!」 エルは消えゆくセイにそう告げると、走って家族の元へ向かった。 またきっと彼と仲良く話が出来るように、そう強く願いながら…
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加