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その薄暗い森の小さな泉には、得体のしれないものが棲むといわれていた。
覗けば水底知れぬ闇。
引きずり込まれそうな泉の中には何がいるのか、それを知るものはいなかった。
一人の少女がある夜、その森に入った。
旅芸人一家の一人娘。
この街には来たばかりで、街の者たちがしているこの森の異形の者の噂など、少女は知るはずもない。
ある日彼女は街から街へ渡り歩く生活に疑問を持った。
街で楽しげに家族と語らいながら歩く同じ頃の少女を見て、自分もうらやましくなる。
しかしどうしたら家族と同じ街でのんびりと暮らすことができるのか分からない。
少女は家族に言えないこの思いをどうしたらいいのか分からず、とうとう家族のもとから飛び出したのだった。
闇に包まれて何も見えない森。
持ち出した小さなランプを片手に、少女は道なき道を夢中で歩いた。
何度も転び、何度も枝や草に服を引っ掛け、辿り着いたのは例の泉だった。
「…キレイ…!」
華やかな服、明るい声、明るい陽射しに囲まれて育った彼女には、小さなランプに照らされた薄暗く静かな泉が目新しい。
思わず、やり場のなかった思いを忘れて泉に見入った。
ランプの光に照らされた泉は、水面がキラキラと輝き、魅惑的に見える。
光に浮かび上がった泉の水面。
森の木の葉が一枚ヒラリと舞い落ちたその光景に、少女は心を躍らせて手元にランプを置き、そっと泉に手をやった。
ひんやりと冷たい泉の水。
少女の細い指先が水面をくぐると、チラリと光が揺れた。
すると、突然少女の上から声がした。
「…この場所を怖がらないなんて、勇気があるんだね。」
「だれ!?」
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