森の泉

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誰か自分を知っている者が追いかけてきたのかもしれない。 少女の先回りをすることくらい、家族なら簡単に出来るはずのことだった。 急いで声がした木の上を見上げると、泉のすぐ近くの枝に少女と同じ年頃らしい少年の姿があった。 少年はこちらを見て嬉しそうに笑っている。 「…あなた、ずっとそこにいた??」 先ほどまで誰の気配もなかったはず。 少女は穏やかな見知らぬ彼に少々ホッとしながら首を傾げて尋ねる。 「いたよ。君が気付かなかっただけ。それにしても、本当に怖がらないんだ。君はそれほど驚かないし。」 ヒラヒラと薄い上下の衣にサンダルという不思議な姿の少年にも、少女は警戒する事なく笑顔で少年に返す。 「もしかしたら、今まで不思議な術や特技をたくさん見ていたからかもしれないわ。中にはみんなに怖いと言われた特技もあったの。きっとそれに慣れたおかげ。私、このくらいの森は怖くないもの。あなたこそ怖くないの?」 驚きの日常に慣れていた少女はそう無邪気に笑う。 彼は木の枝からゆっくりと少女のそばに音もなく降り立った。 そして、 「ここは僕の家みたいだから。」 彼は何でもないことのようにそう返した。 「…『みたい』??どういう意味?」 どう考えても『僕の家みたい』という意味が分からない。 家だ、と言わなかったのが気に掛かる。 「怖いと思っても、僕はこの場所から離れられないんだ。それに、気が付いたらこの泉にいた。」 彼の言葉に、少女は更に分からなくなった。 自分は生まれた時から家族や他から来た旅人たちと旅をしながら生きてきた。 しかしこの少年はこの場所から『離れられない』という。 「…よく分からないけど私たち、真逆なのね。」
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