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セイはエルの答えを聞き、意外だと言うような顔をしてエルを見てからクスッと笑って言った。
「ここに来た人はたどり着くとすぐ行ってしまうんだ。僕もね、この泉は怖い。なんだか吸い込まれてしまいそうで。でも、僕にとって離れてはいけない場所、そんな気がするんだ。」
セイは、エルに向き直る。
「…それでも君は…エルは、僕と仲良くしてくれる…?」
「もちろん!」
エルはすぐに笑ってそう答えた。
エルは家族のもとを飛び出してきたのも眠いのも忘れ、薄暗い森の泉から離れられないセイと、他愛もない話をして笑い合った。
二人の話が一区切りつくと、ポツリとセイが言う。
「…気付いたら僕一人、ここに立っていたんだ。いつからいたのかは分からない。人間はたどり着くとすぐに出て行ってしまうけど、動物は来るよ。みんな、僕に優しくしてくれる。」
セイが何も覚えていない理由は分からない。
だがエルには、ゆっくりと話のできる相手のいない寂しさが分かっていた。
「…セイもさびしかったのね…。私もね、友だちはいないの。いつもすぐに街を出てしまうから…。だからセイとたくさんおしゃべりできてうれしいわ!」
セイはエルを見つめた。
「ありがとう…僕は忘れないよ、こんなに仲良くしてくれたエルのこと…」
「私もよ!…きっと今頃みんなが私を心配しているわ…でも、帰りたくない……」
そして二人は隣同士に泉の前に座ったまま、しばらく泉を見つめていた。
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