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やがて泉のそばに一筋の朝の光が差し込んだ頃、セイはスッと立ち上がり、吸い込まれるかのように泉の中に入っていった。
「…セイ…?」
エルの呼び掛けに振り返るセイの目は、森に差し込んだ光があるにも関わらず、深夜の、光も無い泉の水のように深い青に見えた。
「…僕は留まる者、見守る者だ…。交代で訪れる、泉を見守る役目を与えられた一人…。エル、君は家族と旅を続けて…」
セイの静かな声が泉の周りに響く。
泉の水に浸かったセイの足は、陽の光が差した泉に溶け込んでいるように見えた。
「…セイ…」
エルはセイが何者だったのかを悟り、込み上げてくる寂しさと悲しみを必死に抑え込んだ。
「ようやくわかったんだ、なぜ僕がここから離れられなかったのか…。ごめんね、一緒に行けなくて…」
消えるようなセイの寂しげな笑顔に向かってエルは叫ぶ。
「…きっと、また来るわ!!そうしたら、またセイとたくさんおしゃべりをするの!それまで、セイは泉を見守って!私はお客さんに楽しんでもらえる芸ができるようにがんばるから!!だから…」
「…またねエル、きっと……」
セイは少し笑って頷き、その姿は泉に溶けるように消えていく。
「またね、セイ!!」
エルは消えゆくセイにそう告げると、走って家族の元へ向かった。
またきっと彼と仲良く話が出来るように、そう強く願いながら…
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