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◇
隣りの席の山田一子さんは、美人だ。しかし、なぜかそれをひた隠しにしている。
実際、うまくやれていると思う。黒縁の丸眼鏡と長い前髪で目元は隠されているし、きっちり纒められた髪は無駄に存在を主張せずにいる。制服は校則通りで過不足無く、靴下丈は「太く見える」と女子に不評の脹脛ド真ん中だ。
けれど、隣から見下ろすと、眼鏡の奥の長い睫毛に縁取られた意志の強そうな目は丸見えだし、髪にはいつもきれいに天使の輪ができている。それから、癖なのだろうか、時折やる、靴下の縁を下げて跡がついていないか確認する仕草が、なんだか可愛いし色っぽかったりもする。あんまり見てはいけないかなと思って目を逸らしてはいるけれど。
なんにせよ、美人を隠してまで敢えてカースト底辺に身を置くには、理由があるのだろう。
美しさを理由に嫌がらせを受けたとか、ハブられたとか、イジメられたとか。痴漢とか、ストーカーとか。女の子は、美しさを理由に、男には起こり得ない様々な苦難があるのだろう。
いや、そうではないのかもしれない。見た目の美醜に代表される表面的な優劣に頼る部分の大きいスクールカーストなるものへの問題提起…… アンチテーゼ?
そうだ、彼女は密やかに主張し、一人で戦っているのだ!
彼女のような潔い決断が、僕にもできるだろうか。いや無理だ。他人からの評価の先にある別の価値観で自らを認めていなければ、きっと彼女のようにはできない。カースト上位に甘んじるような今の僕では役不足だ。
それにしても、今日の山田さんは危うかったな。
ぶつかったのは僕が悪いにしても、あんな壊れかけの髪飾りをしていたり、眼鏡も半分ずり落ちていたじゃないか。転んだりしたら、眼鏡が落ちてキレイな目が晒されることになりかねない。
あんな迂闊なところがあるなんて、予想外だ。これからはきちんとサポートしてあげなくては。
幸いなことに、ここはクラス替えの無い特進科。
僕は君に倣って共に戦うことはできないけれど、その秘められた美貌は、三年間きっちり隠してあげるからね!
花見小路実篤。
彼が、予想を超える性格イケメンであり予想を超える天然であることを山田が知るのは、まだ先の話である。
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