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両親の容貌から推察するに、大人になっても自分の容姿は十人並みだ、と諦めていた小学生の頃。既に高校生になっていた姉を真似て眉を整えたら、一気に垢抜けた。ついでに化粧道具を拝借して、見様見真似で睫毛をカールさせたら目が大きくなった。調子にのって、柔らかい鉛筆みたいなので目を縁取り、マスカラをつけ……
たぶん、図工が得意だったのも功を奏したのだろう。鏡に映った顔を見て、山田一子は完璧に理解した。
私ってば、元の顔がシンプルなだけに化粧映えするじゃん! 子供でいる内は日の目を見ないだろうけれど、大人になったら勝ち組だ!
いつ決行する?
姉の例もあるし、高校生なら多少の化粧をしていてもおかしくなかろう。
どんな場面で?
突発的なのが良い。周囲を驚かせて、「え? 誰? あんなかわいいコ、このクラスにいたっけ?」とか言わせたい。と言うことは、周囲に「空気」「ブス」と印象付けてからであろう。
具体的な作戦は?
瓶底眼鏡ときっちり校則通りに着た制服でダサさを演出。髪はいざという時に解けやすいよう、後ろでぐるぐるとひねってまとめ、バレッタで留める。
ダサ子の印象が定着した頃、カーストの天辺に居るようなクラスの中心人物(助け起こしてくれそうな優男)が、姦しい女どもに囲まれているようなタイミングで、態とぶつかって弾き飛ばされる。
その拍子にバレッタ飛ばされる。
倒れた拍子に眼鏡も落ちる。
髪の毛ふぁさー。
眼鏡かつーん。
「大丈夫?」と手を差し出すイケメンを、渾身のナチュラル(に見える)メイクを施しカラコンで黒目を一回り大きくしたうるうるデカ目で、身体にしなを作って見上げる。
息を呑むイケメン。と、その取り巻き。
落ちた眼鏡を拾い上げて「この眼鏡…… え、もしかして山田さん!?」と驚きを隠せないイケメン同級生への返事は決まっている。
小首を傾げて、
「はい。……?」
当然山田でございますよ?と、何に驚いていらっしゃるの?と、さっぱりわかりませんが?と言わんばかりの一点の曇りも無いキョトン顔で言うのである。
更に、「えー!」みたいな取り巻き女子のどよめきを受けて、まさか自分のこととは思いもよっていない顔で、動揺しながら他人事のように小さく「え? え?」とか言いながらキョロキョロと周囲を見回せたなら勝利は目前。後は、差し出されたイケメンの手を取って「ありがとう」と微笑み、イケメンが頬を染める様と、取り巻きの女どもがぢくぢくと突き刺してくる嫉妬の視線を堪能するだけだ。
くぅ〜〜〜…… たまらん!
プランができたことで、メイクの技術に加え、演技力も磨かなくては、と決意を新たにする。もう舞台の幕は上がっているのだ。そこからの学校生活は、ブスキャラ定着に心を砕き、目立たぬよう空気に徹して只管邁進する山田であった。
そして、苦節数年。ついに役者と舞台装置が整ったのである。
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