瓶底姫

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 制服が地味で名高い地元の高校に進学して半年。クラスには明らかなカーストが存在し、自分は底辺。隣の席のフェミニストイケメンは頂点で、山田と同じ中学から進学した性格の悪いキラキラ女子が取り巻き筆頭。今日もまた、 「山田ちゃんいいなぁ。花見小路(はなみこうじ)くんの隣☆」 とか言いながら、「邪魔だブス、席を空けろ」みたいな目で睨んでくる。同情の余地は無い。  この日のために、隣のイケメンとはそこそこの、まあ、跳ね飛ばされたら「大丈夫?」と手を差し伸べてもらえる程度の良好な関係を築いた。  バレッタは少しの衝撃で弾け飛ぶよう細工した。  髪の手入れにも余念は無い。バレッタが飛んだ際に、ほどけてトゥルンと背中に流れ落ちるまとめ髪も研究した。  眼鏡も良い感じにゆるゆる。  キョトン顔も練習し尽くした。  アイメイクもばっちり。  カラコンも装着済み。  底辺と蔑まれる日々は全てこの時のために!  いざ、参らん!  ホームルームが終わり、帰り支度を始めたイケメンに女子が群がってくる。 「アイス食べに行こうよぉ」 「えー。うちらとカラオケ行く約束ぅ」 「図書室で一緒に課題しよっ」  そんな女子からの誘いを困り顔でのらりくらりと躱す標的を、さすがは私の見込んだイケメン、としたり顔で盗み見る山田である。 「また今度ね」  そう言って立ち去ろうとするイケメンの行く手に、さり気なく立ち上がった山田が踊り出る。  ドンッ  背中同士がぶつかると同時に「きゃあ!」と悲鳴を上げる。スローモーションのようにゆっくりと傾いでいく身体。しかしその実、倒れ込む大体の着地点を視界の隅でちらりと確認し軽く受け身を取りつつ、バレッタと眼鏡を飛ばすべく頭を振る動作(モーション)に入る。  見ていろよ、キラキラを鼻にかけたカースト上位の性悪女ども!  山田の眼光が鋭く放たれた。その時、  ガシッ!  床に放り出される筈の身体が空中で止まった。肩というか腕というか、そのあたりに障害を感じる。見ると、それは何者かの手であった。 「ごめんね。大丈夫? 山田さん」  転がる前にイケメンに片腕でがっしり抱き止められていた。超、顔が近い。なんか良い匂いもする。 「ぎぃやあ〜〜〜〜〜〜!」  女どもから歓声とも悲鳴ともつかない音波が発せられる。 「今のかっこよかった!」 「私もされたい!」  口々にぴーちくぱーちくする喧しい女どもにまたも困った顔をしたイケメンであったが、すぐに真剣な面持ちで山田に向き直った。 「ちゃんと前見てなくて。本当にごめん」  山田のズレた眼鏡を直しながら、本気で申し訳なさそうに謝ってくる。うっかり恋が始まりそうな場面だが、いや寧ろイケメンの反射神経を計算に入れていなかった私を許せ、と山田は心の中で詫びた。  なにせ目指す頂きはそこではない。欲しいのは恋ではなく、キラキラ性悪女の「ぎゃふん」のみ。  心配そうなイケメンに、大丈夫です、と控えめに答えながら、山田はふと気付いた。後頭部で震える細工済みのバレッタは今にも吹っ飛びそうだ。頭を軽く振れば、ヤツは飛ぶ。  バレッタが飛んだ拍子に、焦って髪を押さえる。……つもりが間に合わず、挙げ句、振り上げた手を顔に当てて眼鏡を飛ばすドジっ子。で、ワンチャンまだイケるか!?  やる! そう決めて頭を振……   ガシッ!!「危なっ」  イケメンにバレッタごと頭を押さえられた。 「この、髪につけてるやつ、弾け飛ぶところだったよ。ごめん。僕がぶつかった時に壊れたのかも」  誰か代わりになるのある? と問うたイケメンに、誰からともなくブラシとピンが提供される。あれよあれよと座らされ、髪を梳かれて、気付けばイケメンの手ずから結上げられていた。 「ふう。会心の出来!」  もはや、歓声は上がらなかった。出るのは溜息のみである。 「すごぉい……」  女子たちから、感嘆の声が漏れる。その先は、 「そんなこともできるんだぁ☆」 イケメン。  愕然とする山田であったが、誰も気にかけちゃいない。女の子の髪を梳かすイケメンの甘い雰囲気に当てられ、女どもの視線と感嘆はイケメン一点にのみ注がれていた。  顔の皮が引っ張られる感覚に嫌な予感を覚えつつ、手鏡を取り出す。そこに映ったのは、お局事務員感が半端ない、後れ毛一つ確認できない驚異のきっちりかっちりお団子ヘア。頭を振るどころか、アーティスティックにスイミングしても崩れない仕様である。  なぜ、こうなった!?  予想外なイケメンの反射神経及び手先の器用さに、山田は敗北感を覚えた。  でも、大丈夫!  転んだら助け起こしてくれるのは証明された。やはりターゲットはこのイケメンだ!  ドジっ子キャラも印象付けた!  次は、イケメンの反射神経を侮らず、ぶつかる前に弾き飛ぶ勢いで、自ら転がりにいく!  私は負けない!!  決意を新たにする山田であった。が、
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