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私が変われた理由
土曜日デート当日、高校生の心陽(コハル)はゴスロリ一歩手前の黒いワンピースを着て待ち合わせ場所に着いた。
まさか自分がカップルが待ち合わせで使う場所ナンバーワン、ポチ公前で人を待つことになるなんて思ってもみなかった。 ただ周りを見てみると自分の服装が明らかに浮いている気がした。
それに傍から見ればまるで似合っていない。 心陽の体格は一般的に見れば太り気味で、体型を素直に表すそれはナンセンスである。 更に三つ編みの短髪は見るからに艶がなく清潔感もない。
そんな心陽でも彼氏がつい最近できたのは、本人曰く神の思し召し。
―――こんなに太ってブスな私でも男の人が付き合えることができた。
―――まだ私の人生は終わっていなかったんだ!
―――これからは少しずつ女子力を高めていこうかな。
―――でも今まで恋愛は諦めていたから、何も分からないのよね・・・。
『好きです! 付き合ってください!!』
先週クラスで目立つグループにいる思侑(シユウ)から告白された。
目立つグループにいるが目立たない男子という少しややこしい立場であるが、目立たないグループの悪目立ちする女子という心陽よりかはマシだろう。
今までほとんど接点もなかったため、あまりに突然の告白だった。
それでも彼氏ができたことのない心陽にとって、告白されるという体験は胸がはち切れそうな程嬉しく即OKしてしまう程の出来事だったのだ。
―――もうすぐ夏休み。
―――夏休みは思侑くんと一緒にたくさん過ごすことになるのかな?
―――こんなにワクワクする夏休みは初めてかも。
今日でデートは二回目となる。 待っていると思侑が来た。 前回もそうだったが、学校での服装とは違いラフな感じが似合っていた。
「ごめん、お待たせ」
「ううん、今来たところだから」
「そっか。 じゃあ行こうか」
「あの・・・」
「ん?」
振り返る思侑に恐る恐る手を差し出した。
「手、繋がない?」
「手!?」
何故か驚かれた、というより酷く動揺している感じだ。
「駄目、かな・・・? 私たち付き合っているし・・・」
思侑は目を泳がせながら言った。
「あー・・・。 でも今は夏だし、くっつくのは暑くないか?」
「そういうもの・・・?」
「それにさ、俺今めっちゃ緊張して手汗が酷いんだ」
「そう・・・。 分かった」
―――少しでも恋人らしいことをしたかったけど残念。
―――でも暑いのが悪いから仕方がないよね。
心陽は思侑の様子がおかしいことには気付かないでいた。 そのままデートを続け、ベンチに座りアイス入りカップケーキを食べていた。
「そうだ! 夏休みはどうする? 一緒にどこかへ出かける?」
「あー、夏休み? まだ決まっていないんだよな・・・」
「そっか。 思侑くんは部活があるんだよね?」
「そう。 平日はほぼ部活かな」
「なら出かけるとしたら土日だね。 ゆっくり予定を立てていこう」
「あぁ・・・」
―――何か思侑くん、元気ない・・・?
―――気のせいかな。
移動している最中、思侑はチラチラとスマートフォンを見ていたのが気になった。
「思侑くん、歩きスマホは危ないよ」
「あ、悪い」
「そう言えば、今日は夕方から友達と会うんだよね?」
「そうなんだよな。 だから少ししか一緒にいられないけど」
「それでも十分だよ。 私は今思侑くんと一緒にいられるだけで嬉しいから」
その言葉を聞くと思侑は一瞬言葉を詰まらせた。
「・・・ん、あぁ、俺もだよ」
嬉しい言葉とは裏腹に切なそうな表情を見せ、思侑は視線をそらすことが不思議だった。
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