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2.
山田聡志は喫茶「長閑」の扉を開けた。冬の寒い空気の外から入ると暖かくてほっとする気分になった。いつも陣取る禁煙席の端っこを目で探した。そこには既に浅田満男が座って、こちらを見てにっこりして手を挙げて招いた。
「待ってもらったのかね」
「いや、さっき来たばかりだ。まだ約束の時間より早いじゃないか」
聡志は席に座るとやってきたウエイトレスにホットコーヒーを注文した。
「ところで、君が電話してくれた話は興味深いね」
聡志は満男に話しかけた。
「そうだろう。わたしの従妹の伯父さんが特攻だったという話は初めて聞いたんだ。実はわたしにもその人は叔父にあたるんだが、親の付き合いもなかったようだし知らなかったんだ」
聡志と満男は、ながらく努めてきた企業を定年退職したあとからの知り合いで、もう二十年余りの付き合いになる。彼らは長くなるであろう第二の人生の入り口で通信制大学で出会った学びの友であった。聡志は満州からの引揚げ体験があり、定年後にその頃の歴史に興味を持ち、自らの体験も文章にまとめ、戦争の何たるかを掘り下げたいと考えいた。満男はそのことを知っていた。そこで聡志にもこの話に加わってもらおうと誘ったのである。
「その特攻で亡くなったという君の従妹の伯父さんのことなんだね」
「そうだ。従妹の話によると、最近、九州大学の海底フロンティア研究センターのチームというのが、沖縄の海底に沈んでいる特攻機を発見し、その特徴を調べたそうだ。それをもとに防衛省防衛研究所の資料に付き合わせたりして、どうやら従妹の伯父さんが乗っていた可能性のある一人かも知れないというんだ」
「ほう。戦後七十六年も経って、そんなことが判るなんて凄い話だな」
「そうだろう?君はこんな話に興味があると思って、声をかけたんだ」
「ありがとう。僕も特攻に関する本は何冊か読んだけれど、そういう証拠の残っている事例は珍しいね」
「そこで君に頼みがあるんだが」
「何だろう。僕にできることなら・・・」
「実は、その従妹は特攻で亡くなった伯父さんのことをもっとよく知りたいので、私に一緒にいろいろ調べたり話し合う相手になってくれないかって言うんだ。その従妹は、今では一人暮らしで家も近いので時々、相談を受けたりしているんだ。だから私ももちろんOKしたけど、君もそういうことに関心が深そうなので一緒にどうかなって思うんだ」
「えっ。僕も? うん。ではご一緒させてもらおうか」
こうして聡志は満男の依頼によって満男の従妹・加藤鈴音と特攻とその関連について話し合うことになった。満男は三人で落ち合う日程を調整した。
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