act.1 それでも日常は続く

10/11
前へ
/92ページ
次へ
 翌日、部活の水撒き中に色々聞いたら、北の新聞配達はまだ1週間残っているとの事で。ギリギリ新学期には間に合いそうだということだった。  今のままだと朝っぱら学校近くの新聞販売店に出勤して、仕事が終わったら一旦帰宅。それから中古で買ったママチャリで改めて通学という面倒くさい状況になる。ウチの学校はバイク通学禁止だから仕方無いが北の負担が大きくて心配していた。 「悠里はやっぱり寝る時は一緒だ、まだ慣れない家だからしばらくは仕方ない。でもずっとニコニコしてTVを観ている、ポータブルのDVDプレイヤーも再生機として繋いだから余計にTVっ子だ」  相変わらずアニメとお兄ちゃん大好きっ子の悠里ね。 「ヒーターが暑いくらい凄く温まるから、寝室のドアを開けて寝てたら家中温かいんだ。あれなら良いよ、トイレのドアも開けてたら家中寒い所がどこもない。アパートは寒かったからな、雲泥の差だよ」  元々コンパクトな部屋だから良かった、今のところ住みやすいらしい。 「朝の仕事も今朝一応教えて貰ったんだけど、ボイラーのスイッチを入れたり水量のチェックをしたり醸造所の掃除をしたり色々。一番大変なのは早朝に原料を詰んだトラックの搬入を手伝ったり、完成品を出荷したりだけど登校前には何とか出来そうだ」  そっちも大丈夫そうか。  これで北の方は落ち着くかな。  あとは俺の方は新学年から一応進学クラスだ、かと言ってそんなに生活が変わるわけじゃ無い。  とりあえず目の前のGWの過ごし方だ。隆成おじさんはバイトに来いと騒ぐけど、この時期は田植え時期。  去年卒業した先輩方の家には今年も呼ばれている。三浦先輩と中崎先輩は真っ先に予約が入っている(笑)  田代先輩の家にも絶対行くつもりだし、後は氷室先輩の連絡待ち。今回は欲を出さないで田植え以外は引き受けない。時間がある時はファムおじさんの店も行かないと。  予定だけでも結構忙しい。  そしてアメリカの美音からは、メールに時々だが描きかけの木の絵が添付されるようになった。描きたいと言っていた学校の敷地のプラタナスらしい。  ちょっと調べてみたらプラタナスは広域落葉樹だった。美音が描き始めの頃は、かなり寂しいが見事な枝ぶりが特徴的なツルッぱげの木の絵から始まった。  今は春先で枝に新芽が芽吹き始めた。四季の移ろいがあるその木を眺めるのが美音の日課だと言う。  深雪の様な友達は出来たのかな、とかちょっと思ったが、まだ言葉の問題があるのでそこまでの余裕は無いらしい。  それでも絵を描く事を楽しもうとする美音は、やっぱり初音おじさんの言う通り根っからの絵描きなんだろうな。 e02c5da3-66eb-4141-b185-c583c85c6eb2 プラタナス 春の新芽  
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加