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それでもいつもの時間をちょっと過ぎたくらいには帰宅だ。
自転車を玄関に入れるとばあちゃんが迎えてくれる。
「お帰りお疲れ様、晩ごはん足りてる?」
「うん、北の家でケーキをご馳走になってきた。ばあちゃん、北兄妹の誕生日も今日だったよ」
「あらまぁ、櫂と一緒なの!」
さすがにばあちゃんもびっくりだね。
「お帰り拓海、寒かっただろ」
「ただいま、じいちゃん」
居間にはいつも通りにじいちゃんが待っていてくれている、膝にはにゃん太だ。
ダイニングのテーブルには俺の分らしいカットしたケーキが置いてある。
「父ちゃんのケーキ?」
「そうよ、今年は洸と凪紗が作ったわ。昼間のうちに洸がスポンジを焼いて、デコレーションが凪紗よ、一生懸命やっていたわよ」
ちょっと不格好なクリームだけど、親父はきっと嬉しかったね。
「これは勉強しながら食べるよ」
小さいサイズで良かった。
「そう?後でお茶を淹れるわ。今日はローストビーフも作ったのよ。明日の朝にサンドイッチにしてあげるわ」
「うん、ありがとう」
そのまま離れの方に向かう、せめて父ちゃんにおめでとうくらい言いたい。
父ちゃんの家の夜は早い。もうチビ達はそれぞれお休みの時間だな、母ちゃんもひかりを寝かしつけているか。
父ちゃんの書斎をノックする。
「父ちゃん、俺」
「おう、お帰り拓海、入れ」
中に入ると父ちゃんは相変わらず、パジャマなのに書類に埋まって仕事をしている。本棚にはやっと半分くらい蔵書が入ったけど、まだダンボールに入ったままの本もいっぱいだ。要するに片付いていない。
「父ちゃん誕生日おめでとう」
「お、ありがとうな」
特にプレゼントが無いのはうちの伝統だ。その代わりクリスマスだけはちゃんとプレゼントがある。家族が多いのでそう言うのは特別な時だけと決まっている。
俺は美音の誕生日だけは毎年欠かさずあげているけどね、それだけは俺にとって特別なので。
「醸造所から帰る前に北んちに寄ったんだ。あの兄妹も今日が誕生日だったよ」
「本当か?妙な縁だな」
うん、俺がびっくりだよ。
「この日の生まれは負けず嫌いでチャレンジ精神旺盛、逆境に強くてどんな困難にも立ち向かう。あと頑固だそうだ、母ちゃんが言ってたな」
まさに父ちゃんだ、北にも通じる。
「あの子は相当苦労して来てるからな、あとは穏やかに生きて行けるように時任さんがいつも気にかけている。俺もな、大事な息子の友達だ」
それは分かっている、ありがとう父ちゃん。
「男と女って運勢が違うのかな?悠里は北より全然穏やかだよね」
双子なのに受ける雰囲気も全然違う。
「少しは違うらしいぞ、でも好きなものに頑固だったり譲らない部分があるのは北くんと同じじゃないか?」
それ、腐女子全般の性格では無いのだろうか。余り参考にならない様な。
俺はついでにお休みを言って書斎を出た。
「あら拓海、お帰りなさい」
いきなり隣の寝室から出てきた母ちゃんと出くわす。
「ただいま、あ、母ちゃん今度悠里にラムケーキを教えてやって」
さっきの話だ、結構簡単だって美音が言ってたもんな。
「あら、いつでも良いわよ。悠里ちゃんに伝えてね」
「うん」
俺は足早に母屋に戻った。
手早く入浴を済ませて風呂も洗う。居間のじいちゃんとばあちゃんにいつも通りの挨拶をして自分の部屋に戻った。
今日の勉強のお供は凪紗が飾り付けたバースデーケーキだ。写メを撮って美音にいつものメールで送る。
間もなく戻ってきた美音の返事は、自分も一緒にお父ちゃんにケーキを作りたかったと。
きっと俺以外には言わない、美音の本音の向こうに涙が見えた。
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