act.2 それぞれのHappybirthday

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 田代先輩の家の田んぼに直接着いて、先輩宅の親戚や知り合いの人が車を停めたあぜ道に先輩の車も停まる。  専業農家の先輩の家の田んぼはとても広い。人手が要るから、この辺では一番最後に田植えを行うのだ。 「俺と拓海はガンガン行くべ、真ちゃんは初心者だからうちのじいちゃんと一緒だ」  先輩のじいちゃんってそこにいるあの人だ。小柄でちょっと腰が曲がってるが、とても頑固な感じのお年寄り。顔も強面だ。 「じいちゃん、拓海と弟が来たよ」  俺も挨拶しなきゃ。そう思った時に真也がその人の前に飛び出した。 「こんにちは!出雲真也です、今日はよろしくおねがいします!」  そしてペコリ。おっと母ちゃんと昨日練習してたヤツだ。 「おお真ちゃんか、今日はよろしく頼むぞ」  途端、そのじいちゃんが真也を見て嬉しそうに笑う。ものすごい笑顔だ。 「じゃあ真ちゃんはこのじいちゃんを手伝っておくれ、一緒に行こうか」 「はい!」  じいちゃんが差し出してくれた手を嬉しそうに握る真也だ。二人であぜ道の向こうに歩いていく。 「うちのじいちゃん、顔は怖いけど無類の子供好きだ。俺も姉ちゃんもメッチャ猫可愛がりされた。俺が農業を継ごうと思ったのはじいちゃんの影響が大きいよ。逆に真ちゃんがあの強面を怖がらないか心配したんだが」  実は俺もちょっと心配したけど。 「うちもじいちゃんがいるから、優しいお年寄りは真也も分かるんでしょうね」  お任せして大丈夫かな。真也は言われた通りの仕事は即座には出来ないかも知れないけど。 「一応、じいちゃんには真ちゃんを絶対に急がせるなは言ってある。じいちゃんもボランティアで支援学校の花壇とか作りに行ったりしてるから、きっと大丈夫と思うよ」  支援学校?それって市内に一つしかないはずだけど。きっと真也の学校だ。  じゃあ大丈夫かな。 「さてと、働くか。拓海頼んだぞ」 「はい」  手伝いに来てくれた大勢の人達に混じって、今年最後の田植えが始まった。  田代先輩の家では田植え機に乗せてもらえるのが楽しみだ。去年操縦を教えてもらって以来、密かに楽しみにしていた。  きれいに水が張られた水田のあちこちに、前もって運ばれていた田植え機が数台置かれている。そこに真也も手伝って運んだ苗のパレットをセットだ。 「拓海こっち側を頼むぞ、俺はあっちだ」  田代先輩が遥か遠くの田植え機に走っていく。俺も暖機運転の済んだ田植え機に乗り込んで、田植えを開始した。  ある程度機械で田植えした後に、機械では届かない部分の角や変形した所は手植えだ。真也はじいちゃん達に教えてもらいながらそれを一生懸命にやっている。  良かった、真也も楽しそうだ。  真也のその姿を時々目の端で追いながら、今年の田植えも楽しみながら頑張った。 c69ee343-c9ff-4e79-bb03-4abecce54361  
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