act.3 秋

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7b2abbbe-36d5-4eeb-b6cf-b8e08be165fe  またたく間に秋になって、美音が送ってきたプラタナスの絵が黄金色に変わってきた。  この並木は見事だと美音が写真も送ってくれた。  せっかくアメリカに来ても一向に遊ぶ様子のない変わった留学生の美音は、それでも例のネイティブ・アメリカンの男子生徒がマメに声を掛けてくれるせいもあって、次第に他のクラスメイトとも挨拶をする位の雰囲気にはなっているという。  深雪と悠里からは毎日のようにメールが届くそうだ。それに元気づけられていると美音は嬉しそうに言っていた。  所でその深雪の方だが、最近学校の方でクラスメートの美術部員から美音はどうしているのかと軽い調子で聞かれた事があったらしい。  その時にとうとう深雪がキレてしまった、悠里と仁科が心配していた事が現実に。  その言い出した女子生徒とその仲間は確実に、美音への嫌がらせを繰り返していたヤツらだという。 「あんた…!!」  キレた深雪はもう止まらなかった。まぁ悠里も仁科も今更止めるつもりがそもそも無かったけれど。  美音がどういう気持ちでアメリカにひとりで行ったのかを、あんたは考えた事があるのかとそいつらに噛み付いたという。 「美音ちゃんのクロッキー帳を破いたヤツや画材を隠したヤツ、筆を折ったヤツ、その他の陰湿なイジメの数々。あんたに身に覚えがないとは絶対に言わせない!!私は全部知ってるんだからね!!今からでも先生に話してこようか!?ここにいる下級生達に、あんた達がどれだけ酷いことを美音ちゃんにして来たかを教えようか!?」  深雪のあまりの迫力に、そいつらは否定することすら出来ずに押し黙ったと言う。  そんな性根の腐ったヤツは絶対に良い絵など描ける訳がないヤツだと。絵を描く資格など無いヤツらなんだと深雪は啖呵をきったらしい。  イジメを知りながら見て見ぬ振りをした連中も同罪だ、文句があるなら今からでも私も虐めればいいと言い放ったのだ。  もちろんこの事で深雪に言い返す度胸のある者などはいる訳が無い。学校側はこの件では必要以上に神経質になっている。せっかく美音が何も言わずに渡米してくれたのに、ここで動く様なプライドのあるバカはさすがにどこにもいないのだ。  ましてや深雪は四六時中仁科が護っている。あの事件は表沙汰にこそなっていないが、実は警察沙汰にもなった仁科の武勇伝は、相手を半殺しにしたとかの尾ヒレ付きで密かに伝説になっているとかいないとか。  深雪も又、あの時にもっと何かができたのではないかとずっと後悔をしていたから。いくら美音本人に止められたとはいえ、やっぱり黙っていたのは間違いだったと。 「忘れないで、あんた達はこの先一生卑怯者なんだから。少なくとも私はこの事をずっと覚えている。あんた達の描く絵は一生誰の心にも響かない、描くだけ無駄よ!!」  美音はこの事を深雪本人からのメールで聞いたらしい。約束を破ってごめんね、と。 「帰ったら深雪ちゃんと又、絵が描きたい」  美音はそう返事した。  そうでないと深雪が自分を責めたままだからと美音は言った。 「拓海さん、深雪さんがとてもカッコよかったですよ。我々1年生も上級者を見る目が変わりましたから。特に深雪さんにやり込められた上級生はいつもやたら威張っていた嫌な人だったから余計に。今じゃ深雪さんがいる場所ではコソコソしています」  悠里からもその話を聞いたのは内緒だ。仁科は惚れ直していたとかも。  現在、北央高美術部では、深雪、仁科、ついでに悠里の三人がぶっちぎりで浮いた存在になっているらしい。  それも又、楽しんでいるから大丈夫と言う深雪と悠里だった。やっぱり女は逞しい。  相変わらず振り回される仁科が大変だ。
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