act.3 秋

8/9
前へ
/92ページ
次へ
 考えてみたら俺は物心ついてから初めて飛行機に乗ったんだけど、その経験を楽しむ余裕は無かった。  頭の中を支配してたのは見事に美音の事だけだ。  成田からニューヨークのリバティ空港までは往路で13時間、復路で14時間だと美音が行く時に一緒にネットで調べた事がある。  暇つぶしが大変そうと笑っていた。  昨日のうちに美音はちゃんと意識も戻ったとディアさんから報告が来ていた。だから大丈夫とじいちゃんは言うが。  俺が大丈夫じゃない。  俺は周りが思う程、豪胆でも冷静でもない。ただ俺が不安な顔をすれば美音が余計に不安になるから、俺はいつだってポーカーフェイスを気取るようになっていただけだ。  本当の俺は、父ちゃんが言う通り美音をすぐ手の届く所に置いて護りたいだけの、それが精一杯の子供(ガキ)なんだ。  美音がアメリカに行く事が最後まで嫌だったのは本当は俺だった。きっと父ちゃんもじいちゃんもそれを知っている。  それでも、美音の為だと信じて送り出したアメリカで美音が病気になった。それが美音にとってどんなに心細かったことだろうか、それを思うと胸が苦しくなる。  飛行機の中では、黙り込んだ俺をじいちゃんが気づかってずっと話しかけてくれていた。  けど俺は、その話の内容を殆んど覚えていない。  
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加