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病院のロビーにもデカいクリスマスツリーがあったりして、その側ではバイオリンやピアノなどの楽器を演奏してる人もいたりしてる。その周りには結構な人だかりだ。
アメリカの病院ってこれが普通なのかと思ったけど、考えてみたら今日はクリスマスだった。この国はキリスト教の国なんだよな。
「タクミ、コッチ」
アリッサさんが呼んでくれるエレベーターに乗った。そのまま8階まで昇る。
降りた所はとても明るいフロアだった。慣れたように先を行くアリッサさんを追う俺達だ。
「ココ、ミネヒトリのお部屋」
こじんまりとした小さな部屋の前で彼女が止まる、個室なんだ。
アリッサさんがドアをノックをするが返事がない。そっとドアを引くと、そのドアの向こうに美音が眠っている様子が見えた。
「ダイジョブ、ドウゾ」
俺とじいちゃんだけが中に入る。静かに眠っている美音の側に、じいちゃんに背を押され押し出された。
大分髪が伸びたな、あれから10ヶ月も経っているんだ。ちょっと痩せたか?元々食は細いけど、ちゃんと食べられているのだろうか。
でも相変わらず可愛い、ちゃんと猫模様のパジャマだ。俺の大好きな大きな瞳が閉じられているのが残念。
その形の良い唇も、ちょっと低めの可愛い鼻も、そのどれをとっても愛しい…俺の美音だ。
そっと手を伸ばしてその頬に触れた。温かい…ようやくホッとする。
「ん…」
美音が小さく動いた、ゆっくりその眼が開かれる。相変わらず黒目が大きくて、ちょっと猫の様にも見える可愛い美音の瞳。
「拓海…?」
「ああ」
「拓海だぁ…いい夢ね」
美音が笑った。俺の手にすり寄ってくれる。
「俺に会いたかったんだろ、なんで呼ばなかった…?」
本当にいつでも飛んできたのに。
「まだ大丈夫だと思ったの…拓海のメールが毎日届いて拓海の言葉を聞けたから。でもスマホが壊れちゃって…昂兄いないから、どこに修理に行けば良いのか分からなくて…不安になっちゃった」
そうだったのか。
「そしたらね、前から時々痛かったお腹が急に凄く痛くなって来たの。お部屋で寝てたところまでは覚えてるんだ」
「お前、盲腸だったんだよ。バカだな痛みを我慢するから」
「ん…まだ、大丈夫だと思ったの…ごめんね」
俺は美音の頭を抱えこんだ。手術の痕に響かないように頭をギュッっと。
「もう二度とそういうのはダメだ。絶対に我慢するな。お前、俺に会えなくなっても良いのか?」
「え…絶対に嫌」
「俺だけじゃないぞ、じいちゃんやばあちゃん、父ちゃん母ちゃんにもちび達やにゃん太にも会えなくなるんだぞ」
「ごめんなさい…もう我慢しない、気をつける…」
美音の腕が伸びてきて俺の頭を抱え込む。
「あれ…夢じゃないの?拓海はここにいるの?」
「バカ、現実だ。じいちゃんも一緒だ」
俺は腕を緩めて美音から離れた。じいちゃんが美音の顔を覗き込む。
「おじいちゃん…嬉しい、本当に二人で会いに来てくれたのね」
「美音」
美音が笑顔で伸ばした腕をじいちゃんが両手で握る。
「ごめんなさい、おじいちゃん…心配掛けてごめんね。ダメな孫でごめんね…」
「おじいちゃんの自慢の孫だよ、ちょっと頑張り過ぎちゃったね」
「うん…ごめんなさい」
じいちゃんの手にもすり寄る美音だった。
その辺りでアリッサさんもシヴァさんも部屋に入って来た。一応気を利かせてくれていたのか。
「アリッサ、クレアは大丈夫?」
美音が聞く。クレアは美音に懐いてるディアさんの孫だと聞いたな。
「ええ、ミネがイナイと泣いてたけどスグに会えるからダイジョウブ」
「クレアはミネが大好きだからな、でもミネはもうしばらく病院だよ。アル、担当のDrに会えるから行こう」
「そうか」
じいちゃんとシヴァさんが部屋を出て行く。どうやら医者に会えるみたいだな。
「ミネ、タクミがちゃんとキテクレタね。ヨカッタ」
「うん嬉しい」
美音は俺の事をそっちの家族にどんな風に言ってるんだろうか。シヴァさんもアリッサさんも俺を知っていたみたいだし。
「何かホシイノある?もうゼリーとかならタベテいいのよ」
「うん、今はいいわ」
そうか、後で俺が食べさせよう。
「拓海、うちの家族はみんな変わりない?」
「ああ元気だ、ばあちゃんと母ちゃんが心配してたぞ。本当は父ちゃんもここに来たかったんだ」
「うん…拓海から大丈夫って言ってね」
「分かった、にゃん太もちび組も元気だ。深雪も悠里も」
「うん、会いたい」
みんな美音に会いたがっているよ。
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