act.5 護るべきもの 

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 美音は若干不安そうな顔をしていたけど。  カナ姉が病室に来るのを待って、じいちゃんとエルンストがディアおばさんの家に帰っていく。  今日これからじいちゃんはディアおばさんとちゃんと話をして、明日から美音の荷物をエルンストの家に運ぶ段取りをする。俺にも連絡が来る事になってる。  俺はここまでの状況をカナ姉に話す。可愛い弟妹の事になると人が変わるカナ姉だ、もうかなり怒っている。 「本当のアメリカ人はネイティブ・アメリカンの人たちだけだわ。自分だってインドやドイツの血が入ってるクセに何がアメリカ人よ。なに日本人を見下しているわけ?」  そうか、本当の意味でのアメリカ人は先住民族(ネイティブ・アメリカン)だけなんだな。  あとからこの大陸にやって来た欧州人(白人)やスペイン人は、みんな侵略者なわけだ。  白人はその先住民族を銃火器と圧倒的な兵力で蹂躙して大虐殺をして、自分達がアメリカ人に取って代わろうとした。その人種差別の思想は、何百年経とうが白人社会のアメリカに根強く残っているのだ。  俺があの家で何か居心地が悪かったのは、そういう気持ちのヤツがすぐ側に居たからか。 「やっぱり最初から昂輝と一緒なら良かったのかしら」 「それじゃお姉ちゃん、私が成長しないわ」 「う〜ん、もう!うちの妹はそんなに頑張らなくてもいいの!」  ベッドで半身を起こしたままの可愛い美音の頭をグリグリとするカナ姉だ。あっちの家でウォルフと一緒だと俺が嫌だったけどさ。  その日はあまり遅くならないうちに病室を出て、多少遠いが歩いても行けるというカナ姉のコンドミニアムを目指す。明日から俺が一人でも病院に来れるように道を覚える為だ。 「昂輝が今夜シスコから帰ってくるから、明日には会えるわね」 「あ、着替え持ってきてもらおう」  昂輝をアテにしてたからロクな着替えを持ってきていない。カナ姉の家で今日は洗濯だ。 「先に舎監にご挨拶に行くわね。うちの大学の職員だから日本人よ、上手な挨拶をお願いね」 「あ、大丈夫。友達にどこのマナー教本だよってメッチャ丁寧な挨拶するやついるから。それ参考にする」  きっとあれで良いんだな、北。  
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