act.1 それでも日常は続く

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 その日の美音とのメールには、今日父ちゃんたちが無事家に到着した事を報告する。  美音からは良かった安心したと返事が来た。  本当はここにいて家族を迎えたかった美音だけど、今は仕方ないと分かっている。  四月にはそっちでカナ姉に会えるのをとても楽しみにしている所だ。  翌日は俺は朝から醸造所、バイトではなく北の手伝いだ。隆成おじさんと俺は引っ越しのハシゴになった。  もう社宅の掃除は終わっている。小さい荷物は数日前からうちのじいちゃんとじいちゃんの愛車WAKEでちょっとずつ運んだ。  北は恐縮していたけど、そのおかげで今日は北の母親の形見だというタンスと家電類の引っ越しだけで終われる。問題はその前に不用品の処分だ。  思い切ってタンス以外の母親の物を処分する事にした為、捨てなければならない物がとても多かった。今日は隆成おじさんが2tトラックを出してくれるので、引っ越しと不用品の処分を一気に終わらせてしまうつもりだ。  北の家に着くとそこには時任さんもいて、北の荷造りを手伝っていた。 「おぉ隆成くん拓海くん、今日はありがとう」  もう大体荷物の分別は終わっていた。必要なものとそうでない物に分かれて部屋に置かれている。 「お疲れ様です時任さん、わざわざすいません」  隆成おじさんと時任さんはこの後の手順を話している。先に南部浄化センターに不用品を運んで自分たちで片付けてから、最後にタンスなどをトラックに運んでここを掃除する。これが一番金を掛けずに引っ越せる。  そして、完全に引き払う準備をして、北兄妹の身元保証人である時任さんがこの部屋の鍵を預かる。  その後の手続きは時任さんがやってくれるそうだ。 「よし、がんばんべ」  隆成おじさんの掛け声で俺達は動き始めた。  まずは処分場に運ぶ物を皆で手分けして、階下のトラックまで運ぶ。なんせここは四階だからそれが大変だ。壊れてもいいものはベランダから滑車を使ってロープで下ろす。後は階段だ。  一度目の不用品をトラックに満載して北と隆成おじさんが処分場にいく。その間、俺と時任さんはなるべく下の駐車場に不用品を下ろしていた。  悠里は空いたスペースから一生懸命に掃除をしている。 「拓海くんも大変だ、昨日はお父さんの引っ越しだったもんな。そっちはどう?」 「はい、うちは人数がいますからなんとでもなります。それより祖父母が元気になって嬉しいです」  美音がいなくて静かになり過ぎていた我が家にやっと活気が戻って来た。  美音のいない寂しさが変わるわけでは無いけれど、小さな孫たちの存在がじいちゃん達をちょっとだけ元気にしてくれていた。 「そうか、それは良かった。こっちも龍矢に拓海くんのような友達がいてくれて嬉しいよ。あの子は短気だけど根はいい子なんだ、どうかこのままいい友達でいてやってくれ」 「いえ、俺の方こそあいつに助けられてばかりです」  俺の事を沢山心配してくれた。美音がアメリカに行った後も、ずっと俺を気遣っているのも分かっている。 「拓海さんのおかげでお兄ちゃんも大分明るくなった気がします」  掃除しながら悠里が俺たちの方に笑顔を見せた。 「お兄ちゃんはいつも私の事ばかりを心配して自分は二の次の人だったので、お友達も風見さんだけしかいなかったんです。今は拓海さんと知り合って、学校の部活もバイトも本当に楽しそうだから私もちょっとだけ安心しました」  悠里が俺にちゃんと向き直る。 「拓海さん、うちのお兄ちゃんをよろしくお願いします。悪いところがあったら遠慮なく叱ってくださいね、うちのお兄ちゃんは拓海さんの言う事ならちゃんと聞くと思います」 「はい」  それはきっとお互い様だから。  それから暫くして北と隆成おじさんが戻ってきて、二回目の不用品を捨てた後は社宅に持っていく物を運び出す。  それは2tトラックでも余るくらいの僅かしか無い荷物だった。ウチのじいちゃんが細々した物は既に運んでくれたせいもある。 「古い物は殆ど捨てた、悠里と二人ならこれで十分だ」  衣類タンスが一つと小さな冷蔵庫と炊飯器、小さなテーブル兼用のコタツと布団類だ。そこに石油ストーブが一つ、TVすら無い。やたら多いのは悠里の画材と漫画の本が入った箱だ。それとちょっとの雑貨品。 「私の物ばかりです、TVは以前壊れてからずっとこれです」  ポータブルDVDにTVアンテナの端子が付いている。なるほど、こんな感じだったのか。 「お兄ちゃんの物でお金が掛かっているのって、きっとオートバイのヘルメット位です」  ああ、SHOEI(ブランド)の綺麗な青いペイントのヤツだ。さすがにそれには金を掛けたか、自分に何かあったら悠里を護れなくなるものな。  最後にベランダの自家製農園の鉢植えを運び出している北を見る。発泡スチロールに入ってる土が重そうだ。  俺は手を貸す為にそっちに向かった。    
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