過不足の無い予感

1/10
前へ
/10ページ
次へ
 ……何を言っているんだ、こいつは。  僕はそう思った。 「音がね、走り出すんだよ」  友人が恥ずかしげもなくそんなことを言うものだから、僕は彼を冷やかな目で見るしかない。  しかし、黙って冷たい目線を送るだけなのも申し訳ないので、ヒロイックな余韻に浸っているであろう彼へ僕は告げた。 「あのさ、音楽かぶれは、なんか皆そういうカッコいいフレーズを言って自己満足に浸るようだけどさ、音はね、聞こえるもので、決して走るものじゃないと思うんだ」  友人の家に遊びに行ったら、友人はこれ見よがしにギターを片手に作曲作業に(いそ)しんでいたため、なんだか腹が立ったついでに不遜(ふそん)な物言いとなったことは申し訳なくも思う。  でも普通に考えたら、友人を家に招いたのであれば普通に待っていればいいものを、わざわざ僕がやって来るタイミングに合わせて作曲作業をしている時点で、格好良い自分をアピールしたいだけに思えてしまったので、やっぱり仕方がない。  そんなことが許されるのは思春期までで、大学生にもなったのであれば、そんな小さな自己顕示欲は捨てなければ余計に格好悪いし、そもそも同性へミュージシャン気質な俺をアピールして、なんの意味があるのか。  僕は(はなは)だ疑問に思う。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加