過不足の無い予感

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「いや酷いな。お世辞でもいいから褒めてくれよ」  彼は寂しそうに言う。でも褒めるべきところがあまり無いので、仕方がない。 「悪寒のついでに予感も走ったので言っておくと」  僕は思ったことをそのまま伝えることにした。 「なんだよ」 「まぁ予感というか予言みたいなものなんだけど」 「だからなんだよ」  根拠は全く無いが、予感は走り出したので、伝える。 「漫画は止めて、ギターを弾け」 「いや、意味がわからない」  僕にも意味はわからないが、そんな光景が突然浮かんだので、そのまま伝えた。  ただの予感なので根拠は無く、彼を止めるには理屈が足りない気もしているが、間違いなく間違った道を走り出そうとする間違った友人を止められるのは、間違いなく僕だけなので、それでも頑張って止めるしかない。 「絵は上手いのだから、手先の器用さを活かせ。で、その破綻した感性で曲を作って芸術的な感じに偽れ。上手いこといけば芸術的に聞こえるかもしれない。そうすれば、何となく上手くいく気がする」  我ながら乏しい理屈だが、少なくとも彼がこのまま走り出すことは、止めねばならない。  しかし、彼が僕の予言を信じるかどうかは、やはり彼に任せるしかなかった。  彼は少しだけ間を空けて答える。 「適当なこと言いやがって。見てろよ、俺は絶対に漫画で成功してやるからな」  僕自身が当たるかどうかもわからない予言を、他人に信じてもらうことは、やはり難しい。 「まぁ信じなくても別に構わないけど……」  彼の言う成功が何を意味しているのかはわからないし、正直なところ興味も無いが、それでも彼が成功を望むのであれば、少なくとも漫画の道は諦めることにはなるはずだ。
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