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制服に身を包んだ朝にふきげんなあたし、芸能人や音楽のはなしで薄笑うあたし、知らない子に対して親友ぶるあたし、どこかで噂話されていないか臆病なあたし、友人同士がふたりでいると妙に不安になるあたし、いい子ぶるあたし、敵を作りたくないあたし、あたし、あたし。
カメレオンみたいにまわりの色にあわせて変身するあたしは自分の色をわすれてしまったの。
そもそもあたしの色なんてあったっけ。
あお、みどり、あか、きいろ、蛍光ピンクに薄橙色。
あたしはいつだって相対的だ。もしアインシュタイン博士が生きていたらあたしを見つけてきっと大喜びして、まっさきに研究対象に選ぶに違いない。いや選ばないか。あたしはそんな特別なものじゃない。
ひとの顔色をうかがって、きらわれるのが怖くって。ううん、ちがう。きらわれるぶんには別に構わない。よそでしらないうちに噂話されるのがイヤ。ぜんぶあたしの知っているところで、そうやって安心して暮らしていたい。
パンケーキが大好き。それもまわりがあたしをあたしらしくするために決めつけたこと。べんりな理屈。カテゴライズ、マネタイズ、ナビタイム。こんな言葉あそびくらいに本当に無意味、滑稽、無頓着。
でも世の中が全部パンケーキみたいだったらそれはそれで満足かもしれない。二枚のっけて、うえにはバターを載せて、そのうえからハチミツをたっぷりかける。
あたしはパンケーキとパンケーキの間にはさまりながら息をひそめて、その世界すべてを感じるの。そうすればあたしは一番あたしでいられる。
あたしが変身しなくていいのだとしたら、きっと二枚のパンケーキの隙間だけにちがいない。そんなふうなことを考えながら、あたしは今日もまわりにあわせて変身するんだ。
みんな、きっとそんなふうに生きているんだ。
ああ、はやくパンケーキの隙間に帰りたい。
<fin.>
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