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【手綱の先】
「正宗くーん、おじゃましまーす」
「おう、いらっしゃい……………………優。」
「んー?」
「飲んでるな」
「えーっと、うん」
「…………………やってないよな?」
「…………、えーっとぉー……」
「………………。ゆーうー」
「えへへ………」
正宗に放り投げられ、小柄な優の背中がベッドに勢い良く着地する。
正宗の大柄な体格も手伝ってまるで誘拐だが、優はへらへらと笑っている。
「なに笑ってんの!」
「えーだって……正宗くん怒ってるのかっこいいー」
「怒らせてんだろ!」
のんきに笑っている優に覆い被さると、正宗は深く眉間に皺を刻んで聞き取りづらいほど深い声で聴取を始めた。
優の背中がぞくりと震える。
「誰とやった」
「えっと……元彼ー、とぉ」
「とぉー!?」
「なんか元彼が連れてきた人ー」
「……………はぁ………………?」
閻魔のようだった正宗の顔があまりの衝撃に弛んで愕然とすると、優はたまらなく愛おしそうに笑った。
華奢な手で正宗の頬を撫で、今傷つけた唇で今度は慰める。
「ごめんね、でもエッチしただけだよ、好きなのは正宗くんだけ」
優の声は現離れして美しくて、何を言われてもそれが本心なのかどうか分からない。
それが、繊細とは言い難い正宗の耳に掛かると余計にそうだった。
「あのなあ………好きなら俺だけでいいだろ。なんでそーゆーことすんの」
「正宗くんとするのが好きだから」
「はあ?」
「たまに他の人とするとー、してる時ああ正宗くんの方が良いなって思うし、次正宗くんとした時何倍も気持ちいいもん」
「………………」
この問答を、一体何度したことだろう。
自分の肩の間にがっくりと頭を下げ、正宗は深く深くため息をついた。
「……じゃあな?俺がもし同じことしてみろよ、俺が他のやつとしてたらお前どう思う、辛くねえ?」
俺は今辛いんだぞと言外に含め、きょとんとしたような優の顔を見下ろしながら正宗が優しく諭す。
その目が、今覚めたかのように見開かれてそうだよねと同意してくれるのを祈りながら。
が、やっと開いた優の唇が発した言葉は次の通りだった。
「興奮するかな」
「はーーーーー!!?」
「あはは……」
またも大きく目を見開いた正宗の顔を撫でてやり、優はうっとりと笑う。
「だって、正宗くんは絶対そんなことできないでしょ」
「は?」
「できたとしても、ああ優に悪いことした……って自分を責めるよ。申し訳無さそうな顔して俺に謝るよ」
「…………」
「……そんなの、想像しただけでもう俺……、たまんない、いきそう……………」
「─────」
語りながらも優の顔は快楽に浸るように蕩け、声には呼吸が交じった。
僅かに揺れる腰と擦り寄ってくる脚に、正宗はすっと背中が冷える。
色を失った正宗の顔を、やはり優は楽しげに撫で続けていた。
「そしたらおれ、いっぱい慰めてあげるね?」
一層熱の籠もった声で囁かれ、正宗はやっと我に返る。
何か大仕事でもするように息を飲み下した。
「おまえっ、無茶苦茶すぎるだろ……………!!」
「そうかなあ」
くすくすと笑いつつ優が正宗の頬に口づける。
その呼吸が激しく正宗の耳を擽った。
「ねえ正宗くん、俺他の人といっぱいしてきたよ。チュウして、舐めて、ここに入れてきた…………」
「…………………っ」
優は顔を離し、正宗に向かって腕を広げて真っ直ぐに見上げた。
「………………お仕置きして?」
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