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【今から行く】
準備しとけ。
そうメッセージを受け取ってから10分後、進藤さんが部屋に来た。
ノックをするでもチャイムを鳴らすでもなく、予め鍵を開けておいたドアを不躾に開き、千鳥足で。
「ずいぶん飲みましたね……」
「あー?」
「なに飲んだんですか?」
「ビール」
「と?」
「だけだよ、うっせーな」
ビールだけでこれとは、どれくらい飲んだんだか。
家主の俺をぞんざいに押しのけソファにどっしり座り込んで、「おい」呼ばわり。
酔っ払って正体無くしたこの人をこの部屋に引っ張り込んで三ヶ月、一度も名前を呼ばれたことはない。
この時のためだけに常備してあるミネラルウォーターを持って素直にソファの前へ行くと、
「脱げ」
こうだよ。
俺の手からペットボトルを奪って一瞬で開け、呷りながら細い研がれたような目で俺を見る。
「準備してあんだろ」
「はい」
顎をしゃくり上げて促され、バックルを抜いてファスナーを下ろすと進藤さんが鼻に皺を寄せて笑った。
「なに膨らましてんだよ」
「………………」
──仕方ないだろ。
好きなんだよ、あんたが。
期待するだけで勃つんだよ。
ジーンズを脱ぎ落とし、蹴って除けながら下着も下ろすと進藤さんの引き攣った笑みが余計に嫌悪に歪んだ。
「……気っ色わる」
「………………」
そりゃあな。
ほとんど悪意で見てんのに余計勃ってたら気色悪いよな。
「……進藤さんは?」
「舐めろ」
「はい」
ソファに跪いて進藤さんのベルトに手を掛けると頭はたかれた。
「先にてめーのにゴムつけろ、つけられたくねーんだよ」
ここでやっと、俺も少し苛立った。
もう舐めたくて触りたくて仕方がないのにゴムって。
先に触らせてくれたって良いじゃないかと。
ちゃんと同時進行で着けるのに。
とは言え無駄に機嫌損ねたくはないので言われた通りに袋を裂き、片手で被せていきながら股間に顔を埋めてしまうと、もう呼吸が早まるのを治められそうにない。
「キッショいんだよお前…………」
そう言いながらも、進藤さんはとりあえず俺がしたがることを遮ることはあまりない。
よほど萎えるようなことをしてしまうと別だけど──
それは数少ないこの人の最低限の優しさなんだと、まあ思いたいように思っておく。
どうせ、それ以上のことなんて望みようもないんだし。
「んっ、………んん……」
当然まだ柔らかいそこに愛撫しながら、堪えきれずに右手は後ろ手に自分のために使う。
中指一本入れただけで濡れた音がするそこを、くだらなそうに笑いながら進藤さんが体を起こした。
俺の上から尻を覗いて、ハッと笑う。
「どんだけ濡らしてんだよてめーは」
「……準備しとけって、進藤さんが言ったんじゃないですか」
「………………」
「も、いいですか…………」
この人、なんでだか酒入ってる方が勃つんだよな、硬いし。
──それが。
(すげえ好き…………)
進藤さんには口でゴムを付け、喉の奥まで咥え込んでぐっと締める。
進藤さんがごくりと喉を鳴らしたのがもう煽り立ててたまらない。
筋張った首に喉仏が浮くのがもう、色っぽくて。
「乗っていいですか?」
「体重掛けんなよ。重てえんだよお前」
「はい……」
ソファの背もたれに手を突き、だらしなく腰掛けてる進藤さんの腰を跨ぐ。
ああ、このやさぐれた退廃的な雰囲気が、すげえ好きだ…………。
いつでもピリついてて不機嫌そうで、全方向に角立てて回ってるような。
「ん………………」
できるだけやらしく音を立てながら飲み込んでいくと、ただでさえ凶悪なその目つきが更に鋭く細まっていく。
「あ……………っ!」
「………慣らしすぎだろ、緩いんだよ」
「ん、すいませ……っ待ち切れ、なくて、ん!あっんやば、気持ちい、」
「…………っ」
「進……藤さんここ、分かります?前立腺ってゆうの、すげ、あんっ……」
「うっせえよお前……知るかそんなもん……っ」
「あ……!っん!んーー、あっあっ奥もすきっ、」
「ほんっと声デケェなおめーは!少し黙れ気色悪い!」
「んー……!ごめっ、なさ…だって、気持ちい、っ!」
そうだよ、だから防音しっかりしたとこ住んでるんだよ、オナニーだって声出ちゃうんだからあんたの咥えこんだらそりゃ出ちゃうよ。
「……いっても俺が出すまでやめんなよ」
「はいっ、ん、あ……あ、あー……」
「重てえよ」
奥を擦りまくっていた俺を退けるみたいに突き上げられて、雷でも落ちたのかと錯覚した。
気づくと俺はキャンキャン声上げてイキまくっていた。
徐々に戻ってくる意識がどこかでゴム替えなきゃ、と思うんだけど、萎えなかった。このままでいいか……。
進藤さんに言われた通りに収縮するそこを酷使しながら腰は止めない。
「引くわ……………」
「ん……………」
どれだけ引いても良いですよ、こうして来てくれるんなら。
本当は少しくらい、キスとか愛撫とかリップサービスとかあったら死ねると思ってるんですけど。
「やっあ、やばい中、いい……っ、……………っ」
まだ思い切り痙攣してるそこを使いまくるものだから快感が生半なもんじゃない。
もっといっぱい声を出したいんだけど────
──言ったら殴られることを言ってしまいそうで、唇を噛む。
「……静かは静かでキモいな。頭おかしくなったか」
進藤さんが嘲るように笑う。
頭ならとっくにおかしいんだよ、あんたなんかに惚れるなんてどう考えてもまともじゃない。
俺は、愛して愛されて手ぇ繋いでデートもするような恋がしたいんだよ、したいセックスだって本当はこんなのじゃない。
それでも良いと思えるくらい惚れるなんてやっぱりいかれてる。
「……っだって、ビール、だけでしょ今日……」
「あ………?」
──せめて、日本酒飲んでればな。
この人は確実に記憶を飛ばすのに。
そしたら……………
「んっ……んっ……あぁ、イク……」
目の前が白むような快感にまた襲われて、今度はさすがに俺のそこも縮まってきた。
間違っても進藤さんに垂らさないよう外して拭き、もう一度付けなきゃいけないから自分で扱く。
最低限のところで被せ直し、その間腰は動かせなくてもきっちり締めて絡めてご奉仕は忘れない。
本当に、良く躾けられたもんだ──大半は進んでやってるんだけど──。
ほっと息をついて進藤さんの顔を見ると、さも気持ち悪そうに、何か汚いものでも見るみたいな目をしていた。
──あんたな、そんな顔したって萎えないじゃないか。
俺の口とケツで勃たせられてるんだぞ。キモいと思ってんのにその様なんだから相当なことなんだぞ。
いい加減認めろよ、体の相性は良いって──
「……進藤さん、きもちいい?」
「………うるせえよ、無駄口叩いてねぇでケツ振れ」
「はーい…………」
でもまだ、いかないで欲しい。
進藤さんは二回戦するってことがほとんどないし、終わったらすぐ寝るか元気なら帰ってしまう。
「っあ、だめ…………」
「あぁ?」
体の奥で進藤さんのが震えている。
俺は、また乗ってきたとこだったのに──
きつく顰められている顔を目に焼き付けて、最後まで絞るように腰を揺らす。
しんみりそうしているとまた頭はたかれた。
「どけ。」
「はいー……」
素直に腰を上げてソファの下に降りるけど、抜ける瞬間がどうしても気持ちよくて。
溢れた声にまた進藤さんが頬をぴりつかせる。
(いっぱい出たなあ……)
口に出してくれればいいのに、これ。
思いながらもゴムを外して縛る。
俺が女だったらこれ使ってしまう気がする。
「……舐めますか?」
「聞いてんじゃねーよ、てめえが舐めてぇんだろ。さっさとしゃぶれ」
「はいー」
願わくばまた大きくなってくれないかなあと熱を込めて唇を落とした。
珍しいことに少しずつ反応してきて俺の胸は踊った。
立ち上がったそれを口から出して根本に口づけ、このアングルを焼き付けようとじっくり眺める。
丁寧に愛撫しながら半端だった熱がもうたまらなくなって乳首の周りをそっと撫でた。
そそり立ってるそれの向こうで進藤さんがまた冷めた視線を寄越している。
「……なにお前、そこ感じんの。キモ……変態かよ」
「んっ………」
「今のでよがんなや、マゾ」
──あんただって、俺にやらしてくれたら目覚めると思うぞ。
どうでもいいけど我慢汁足りない。
俺が引かせたせいか。
乳首は諦めて両手も使い、奥まで咥え込んで吸って扱く。
ほどなくして進藤さんはイッたけど────
──なんでだか、俺もイッた。
当然のごとく進藤さんは引きに引いて、満足はしたらしいけど機嫌悪そうに帰っていってしまった。
微かにあの人の熱が残るソファに沈んで、電気を消して乳首を撫でる。
ああ、ここ、舐めてくんないかな……………
指入れてくんないかな、
キスしてくんないかな、
生で中に出してくんないかな…………
「あッ!ぁんあんっ……や、んんっ……」
──進藤さん。
進藤さん進藤さん進藤さん進藤さん────
「好き……っ進藤さんっ、好きぃ、気持ちいい……!」
「も、ダメ、そこだめぇ……ぁ──……!」
「いくいくいく、いっちゃっ、あ──……!」
自分でも驚くほど腰が跳ねて、先端が濡れていく。
暗闇に溶けていく呼吸は割りとさっさと落ち着いた。
「……いや、マジで楽だなゴムしてると」
結んで捨てて、さっさと拭く。
──次、いつ来てくれるだろう。
それまで俺、もつだろうか。
鼻の奥が痛くなってきて、慌てて頭を振る。
会ったばっかでこんな気持ちになってたら身が保たん。
「…………………」
携帯を持ってみて、少し考えて、やめた。
おわり
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