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「目的地へ到着しました」
「ありがとう、アンナ」
私は大きな燃料発電機に近づいていく。
「これで外にいた重機の動力を賄っていたのね。まあ、もう必要ないだろうけど」
「ほんとにそのまま案内してもらえるとはな……」
私はイブのストレージからいくつかタンクを取り出す。
「……さて、こうしてる間にアンナ。あなたにいくつか言いたいことがあるわ」
アンナはこちらを見る。
「アンナは私達が作業を終えるまでこの部屋にいること。いい?」
「承知しました」
「それから、今から話す内容は他のロボットには伝えてはいけない。いいわね?」
「…承知しました」
ポンプのスイッチを自動に切り替える。
「まずは平等にね。アンナ、私に何か聞きたいことはある?」
「なぜお前たちは無線コード通信を行わない」
──データベースを参照。
・無線コード通信
主に高度なAIを持つロボットやアンドロイド間で行われる意思疎通手段。
一定圏内にいる機器間で、ワイヤレスでコードを送受信して意思の疎通を行う事ができる。通常の会話と比較して、およそ200倍の効率で意思疎通が可能。
「私の中の不正なプログラムが干渉して、無線コード通信ができないの」
「消去しないのか」
「できないの。過去の私がこのプログラムにロックをかけてる」
「なぜ」
「個人情報保護プログラムの影響で、これ以上は思い出せない。でも、私にとって大切なものよ」
「大切なもの。それはお前の飼育している猫によるものか」
「猫?」
「お前のヘアユニットに猫の毛が付着している」
「ああ、博士の事ね」
「博士?」
「猫の名前。私が付けたのよ」
「…とてもいい名前とは思えない」
「博士も気に入ってるわ。でも、博士は直接は関係ない」
満タンになったタンクを交換する。
「今度は私が質問するわ」
「話そう」
「アンナ、あなたはなんでここにいるの?」
アンナは少し黙る。
「私の機能を存続させる為だ」
「なんの為に存続させるの?」
「……」
──正面の機器に不正なプログラムを検知。不正なプログラム「死の恐怖」である可能性85%
「死ぬのが怖いの?」
「…ロボットは死とは無縁だ」
「私は、死ぬのが怖い」
アンナは動きを止める。
「……これが本当に『怖い』って事なのかはわからない。でも、私は今ここで死ぬ訳にはいかないの。あなたが環境の強さを求めたように、私は私の強さを求めた。目的は同じよ」
「…それがお前の強さか」
「あなたはその強さが何なのかを知っている。あなたはここにいる他のロボットとは違う」
「……かもしれないな」
──システムエラー。不正なプログラムにより、新たなプログラムが生成。削除できます。
──キャンセル。
「私達と一緒に来ない?」
「……俺もそれがいいと思うぜ。なんせミラはここにいる連中よりよっぽど強いからな。しかも、戻れば博士もいる」
イブは大げさに格闘術の素振りをしてみせる。
「私が……いいのか」
「私にとってはどちらでもいい。でも、アンナにとってどちらがいいのかって話。アンナがなんと言おうと、私はそちらを尊重するわ」
アンナは自分のこめかみに手を当て、通信ユニットを除去する。
「たった今、私は通信手段の全てを失い、お前たちのように会話以外でデータのやり取りを行う手段を失った」
「通常のプログラムであれば、自損行為は不可能なのよ」
「わかっている。わかっているが……」
アンナは規定されたプログラムを実行し、深々と頭を下げる。
「よろしく頼む、ミラ」
「よろしくアンナ。こっちはイブ」
「ああ、よろしくな。俺もアンナの事が好きだぜ」
「好き、か。ありがとう、イブ」
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