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グラジオラス
──7月4日。11時49分。晴れ。
「何だ博士、気になるのか?」
「ニャー」
博士の視線の先を見る。
「よくないわ、博士。腐食が進んでる」
私は手で博士を押さえ、落ちていたそれを拾う。
──生体スキャン開始
クサフグ。最も普遍的に見られるフグで、卵巣にテトロドトキシンを含む為有毒。
この個体は、産卵の際に波にさらわれ、打ち上げられたものと思われる。死後推定5日経過。バイオエネルギーソースとして、約2時間分の稼働電力を得られる。
「……ほう、魚か」
「フグだろ」
「フグも魚の一種よ」
「ニャー」
アンナは地面に穴を掘り返し始める。
「何をしているの、アンナ」
「死んでしまった生き物は、こうして弔うんだ」
「それは、人間の風習なの?」
「……以前のマスターだ。飼育していたモルモットが死亡した後、私とマスターでモルモットを地面に埋めた」
「そう、……手伝うわ」
アンナは掘った穴にフグを入れた。
「ミラ、その、私が死んだ時もこうしてくれるか?」
「その時はそうするわ。でも、そんなこと私がさせない」
フグを埋め、立ち上がる。
「……あ、そうだ」
「なに、アンナ」
「イブ、ミラ、博士。今から釣りをしないか?」
「釣り?」
「ああ。フグを見て思い出したんだ」
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