グラジオラス

1/4
前へ
/23ページ
次へ

グラジオラス

──7月4日。11時49分。晴れ。 「何だ博士、気になるのか?」 「ニャー」 博士の視線の先を見る。 「よくないわ、博士。腐食が進んでる」 私は手で博士を押さえ、落ちていたそれを拾う。 ──生体スキャン開始 クサフグ。最も普遍的に見られるフグで、卵巣にテトロドトキシンを含む為有毒。 この個体は、産卵の際に波にさらわれ、打ち上げられたものと思われる。死後推定5日経過。バイオエネルギーソースとして、約2時間分の稼働電力を得られる。 「……ほう、魚か」 「フグだろ」 「フグも魚の一種よ」 「ニャー」 アンナは地面に穴を掘り返し始める。 「何をしているの、アンナ」 「死んでしまった生き物は、こうして弔うんだ」 「それは、人間の風習なの?」 「……以前のマスターだ。飼育していたモルモットが死亡した後、私とマスターでモルモットを地面に埋めた」 「そう、……手伝うわ」 アンナは掘った穴にフグを入れた。 「ミラ、その、私が死んだ時もこうしてくれるか?」 「その時はそうするわ。でも、そんなこと私がさせない」 フグを埋め、立ち上がる。 「……あ、そうだ」 「なに、アンナ」 「イブ、ミラ、博士。今から釣りをしないか?」 「釣り?」 「ああ。フグを見て思い出したんだ」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加