グラジオラス

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「こう?」 「違う。ここの輪っかに糸を通して結ぶんだ」 「何だミラ、釣りは初めてなのか?」 ──データベースを参照。「釣り」についての項目を複数発見。暗号化された記憶がロックされています。 「やったことはあるはず」 「記憶にプロテクトがかかっているのか」 「そう。あの人と一緒にやっていたんだと思う」 「あの人?」 「私のマスターよ」 「そうか、ミラは私と同じで、前のマスターの事が好きだったんだな」 「……愛してた」 ──システムエラー。 不正なプログラムが機能を活性化。任意で削除できます。 ──キャンセル 「だとよ。ミラは今まで見たきた中で一番人間に似てて気持ちわりいんだ」 「そんな事は無いぞ、ミラ。前のマスターは、愛の力は強く尊い物だと言っていた」 「あの人の事は何も思い出せないけど、愛していた事だけはわかるの」 「ロボットが『愛』ねぇ」 「私は博士もミラも、イブもみんな好きだ」 「……ありがとうアンナ、私もよ」 糸が結び終わる。 「できたわ、アンナ」 ──強度試験開始。 ……推定破断強度、89% 「上出来だ」 「そしたら、この針に餌をつけるのね?」 「そうだ。餌はそこらにいる生き物ならなんでもいい。私はこの虫を使う」 「私は……」 ──生体スキャン開始 ・カメノテ 甲殻類ミョウガガイ科 バイオエネルギーソースとして、100gあたり1.3時間分の稼働電力を得られる。 「これにしてみようかな」 「うわ、なんだこの生き物」 「カメノテって言うのよ。貝の仲間らしいわ」 「詳しいな、ミラ」 ──穿孔用ドリルアームを展開。 「これで取れるかしら」 コンクリートの隙間にドリルアームを刺し、カメノテをほじくる。 「けっこう固そうだな」 「取れたわ」 取れたカメノテを釣り針につける。 「これでいい?」 「ああ。あとは適当に海に落として、じっくりとあたりを待つんだ」 「こうかしら。えい」 釣りの仕掛けが海に落ちる。 「……ところでアンナ」 「どうした、ミラ」 「なんで私達を釣りに誘ってくれたの?」 「そうだな」 アンナも仕掛けを海に落とす。 「釣りは確かに魚を撮るには非効率だ。だが、ミラはこう言うのが好きなんじゃないかと思ったんだ。いつもミラは、人間の娯楽に興味を示していただろう?」 「バレてたのね」 「この間釣具屋の前を通っただろう?その時にピンときた。それに、博士も猫だから、魚が釣れたらきっと喜ぶ」 「ニャー」 博士はあくびをしながら、私達を見守る。 「……イブ。魚が食いついてるぞ」 「お、マジか」 アンナは指をさしてイブに伝えると、イブはホイールを空転させ、糸を手繰り寄せる。 「おお、釣れた!」 「やるじゃないか、イブ」 ──生体スキャン開始。 ・キジハタ スズキ目ハタ科 縦縞、反転模様が特徴的な根魚。10年ほどかけて40cmほどに成長するとメスからオスへ性転換する特徴を持ち、高級食材として知られている。 この個体は30cm程のメスであり、外観上3匹のヒジキムシに寄生されているがバイタルは良好。エネルギーソースとして、約8時間分の稼働電力を得られる。 「これは博士にあげよう」 「博士、おいで」 博士はキジハタの匂いをかぐ。 「イブ、ストレージからナイフを出して」 「はいよ」 ──調理シーケンス開始。 ……完了。 「どうぞ、博士」 下処理したキジハタを博士がかじる。 「おいしいか、博士」 「ニャ」 アンナは博士を撫でる。 「はぁ、私の所には何もこないわ」 「もしかしたらエサが良くないのかもしれない」 「カメノテの味覚評価値は悪くないのに」 その後も、魚のあたりを待ち粘る。 「ミラ、残念だが……そろそろ日が暮れそうだ」 ──現在時刻18時16分。 「そうね、今日はもう帰るわ」
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