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グロリオサ
──8月17日。19時04分。快晴。
人間の痕跡を辿り、とある倉庫にたどり着く。
「お、驚いた……」
「……私も驚いているが、大丈夫。安心しろ」
──顔認識中……顔認識完了。新たな個人データを登録。
「近寄るな!!」
女は鉄の棒を構え後ずさる。
「安心して、危害は加えないわ」
「嘘だ!お前、あいつらの仲間なんだろ!」
「あいつら?」
「なあミラ、こいつホントに人間なのか?」
「どうしてそう思うの、イブ」
「よく見ろ、右アームの骨格部分が露出してんだろ」
──機器スキャン開始……特注品の為機器特定不可。
「多分あれはアンドロイド技術を応用した義手よ」
「流石ミラ。早いな」
「ああ、ミラが言うなら間違いないはずだ」
「お前らさっきからごちゃごちゃと……!」
女が棒を振りかぶる。
──対人制圧プログラムを実行。武器の無力化を試行。失敗。
──脚部ユニットに殴打によるダメージを検知。吸収率97%
──個人による暴力を検知。安全のため、ダメージリアクションを[吸収率56%]に増幅。
「お、おい何だこいつ……強えぞ!」
「あたしはな、お前らみたいなポンコツ共を何台もぶっ殺してきたんだよ!」
──敵機の熱量増加を検知。推定出力600%
「お前らも全員ぶっ殺してやる!!」
「ミラ、危ない!!」
再び女が振りかぶる。
──対人制圧プログラムβ『ロボ工学及びアンドロイド思考ルーチンの理解に長けた人間の制圧』を実行。
──格闘技コーチングプログラム『テコンドーライセンス3』及び『ボクシングライセンス4』を実行。
「うぁっ……」
武装解除。膝を崩す。手首関節の挙動制限。
「……私はあなたが倒してきたポンコツとは訳が違うの」
「やめろ!離せ!!」
「落ち着いて。私達はあなたを傷つけるつもりはないわ」
「だ…黙れ!!!」
女が暴れる。制圧に支障なし。
「無駄よ」
「そうだぞ、私でもミラに勝とうとは思わないからな」
「なんだそりゃ。なあお嬢ちゃん、本当に俺達は危害を加えるつもりはないんだぞ」
「う、嘘だ……嘘だ……!」
個人の脈の低下を検知。戦意喪失。
「お願いします……、殺さないで……」
「殺さないわよ」
「……」
拘束解除。
「ようやく落ち着いてくれた。ねえ、名前は何ていうの?」
「……」
「?」
女の顔を覗き込む。女は泣いている。
「はぁ、困ったわね」
「怖がらせすぎだぞ、ミラ。私ならもっとうまくやれた」
「アンナじゃこの子に勝てないわよ」
「俺じゃもっと無理だ」
私はしゃがみこみ、女の背中に手を当てさする。女は肩をびくっと震わせる。
「ごめんなさい、怖がらせちゃって。大丈夫よ、私は絶対にあなたを傷付けたりしないし、必要があればあなたを絶対に守るから」
「……」
「あなた、猫は好き?」
「……」
「私は猫が好き。今はいないけど、多分今近くにも猫がいてね。名前は博士っていうの」
「……」
「ニャー」
博士は呼ばれたと思って出てきたようだ。
「ほら見て、博士よ。おいで、博士」
女は顔を上げる。博士は女をまじまじと見つめる。
「撫でてほしいみたい。お尻をこうやってトントンされると喜ぶのよ」
「……」
女は恐る恐る手を伸ばす。
「わっ……」
「ふふ、かわいいでしょ」
博士は女の膝の上に乗り、ふんぞり返った。
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