ハルジオン

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「……っふー、ヒヤヒヤしたぜ。EMPは大丈夫だったのか?」 「ストレージの復旧は今の所問題ない。67%まで終わってるわ。イブは?大丈夫なの?」 「まあな。俺はボディが小せえ分、シールドの展開も早い」 「……そう」 イエネコを見る。 EMPのショックにより気絶しているが、問題ない。しばらくすれば目を覚ますだろう。 「にしてもやっぱ強えな、ミラ。EMP食らってから動き出すまで、1秒もかからなかったんじゃないか?」 「正確には1.72秒だけどね。まあそれでも、あのポンコツ共の演算処理よりは確実に早いわ」 「所でそいつ、どうすんだ?怪我してんだろ?」 イブは診察モードに移行しながら言う。 ──ストレージの復旧完了。一部の破損したデータを削除。 「どう?治せそう?」 「あのなミラ、俺は確かに医療用ドローンだが猫用じゃねえ」 「できないの?」 「この程度の怪我なら、促進剤を生成して投与すれば3時間もあれば動けるようになる」 ──データベースを参照。 ・『治癒促進剤』 靭帯断裂や骨折など、命に別状はないものの行動不可能になるほどの損傷に対して素早く対処するための薬剤。殆どの脊椎動物に対して使用可能。 原材料にスズラン、トリカブト等の高度な毒草を含むが、医療用ドローン等の精密機器があればタール、石灰で代用が可能。 代用した場合、染色体異常を引き起こすホルモンを含むが、基本的に生殖機能を失うのみにとどまる。 「早くして。もうできてるんでしょ?」 「おっと、気付いてたなら話が早い」 イブは猫に促進剤を投与する。 「この子はイブのストレージに入れておくわね」 「ああ、この程度のキティなら問題ない」 「じゃあ、このまま調査を続行するわ。隣のビルに行ってみましょう」 隣のビルに移動する。 「あちゃー、こっちはダメそうだな」 「自立したAIによる高度なセキュリティロックがかかってる。ハックは難しいわね」 「52年間ずっと手付かずなんだろ。そりゃ厳しいね」 「……あくまで『他のロボットには』ね」 ──セキュリティゲートとの接続を確認。 「はぁ~、これだからウチのミラさんは。返り討ち食らって削除されたらどうすんだっての」 「大丈夫。どうせただのビルメンテナンスAIよ」 ──メインシステムへの侵入に成功。利用者コードをコピー中……。 コピー完了。 菅原敬太 24歳 男 利用者ID:10255064771 利用者IDを確認しました。 おはようございます、菅原様。メインゲートを開きます。 「終わった。行くわよ」 「早いなーチクショウ」 ──地形スキャン開始。 ……完了。データベース参照の結果、『株式会社プリモテスラ』の本社と一致しました。 「はえー、ロボットとドローンだらけだ」 ロボット達は52年前の命令に従い、今もなおビルメンテナンス業に従事している。利用可能な新品状態のパーツも山ほどある事だろう。 「建物のメンテナンスは全てビルメンテナンスAIが行ってるようね」 「おはようございます、菅原様」 「うおっ、女ぁ!?……なんだよ、ロボットか。ビックリした」 「お待ちしておりました、菅原様。タスクをご確認なされますか?」 ──機器スキャン開始。 ・「タスクマネージメントロボ(秘書ロイド12-F4)」以下広告文 人気を博したwaffle社の秘書ロイドシリーズに最新モデルの12が登場! さらに増した処理能力、高性能カメラは魚眼レンズ付き! デザインもM1~M12、F1~F12と幅広く取り揃えています! M1~4、F1~4は、以前人気を博したデザインの復刻版! さらには豊富なカスタマイズパーツによって、お好きな容姿へとカスタマイズしていただけます! このデバイスに不可能はありません!それは、秘書ロイドだから……。 「おはよう。今日のスケジュールを確認して」 「本日のスケジュールは得にありません。思い切って、午後は休まれてはいかがでしょう?」 「おいおい、何普通に会話してんだよ」 「いいの。今日は自分の他に誰が出社してる?」 「本日出社されたのは菅原様のみになります。昼食のご注文はいかがなされますか?」 「いや、今日は弁当がある」 「承知しました。また何かありましたらお声掛け下さい、菅原様」 「ありがとう」 先へ進む。 「菅原様」 秘書ロイドに足止めされる。 「何?」 「ペットを連れての勤務は禁止されています」 「……そう、じゃあ秘密にしておいて」 「わかりました。特別ですよ」 先へ進み、オフィスの中へと入った。 「さっきの、やけにあっさりと通されたな」 「そういう物よ。イブみたいなドローンやセキュリティシステムと違って、私達みたいな個人用デバイスは都合よく作られてるの」 「ハハン、流石『元』お手伝いロボ。説得力があるね」 「今日はここで一晩過ごすわ」 「だな。目一杯充電させて貰おう」 「その前に、その子用の食料を探さないと。きっと備蓄用の栄養スティックがあるはず」 ──データベースを参照。 ・『栄養スティック』 備蓄用に開発された棒状の食料。完全食とされ、これを1日に2本食べるだけで、人が生きるのに必要な全ての栄養素が得られる。 バイオエネルギーソースとして摂取可能。一本で一度に36時間稼働できる。 ──シュミレーション開始。 ヒト用の栄養スティックをイエネコに摂食させる場合、栄養スティックに含まれるカフェインがイエネコに与える影響。 ==clear== 72.6gずつ分けて1日4回まで与えること。 「そうか…、こいつ飯食わなきゃいけないんだったな。ホントにミラみてえだ」 「生物が食料を摂食した際のバイオエネルギー変換は、私のバイオリアクターよりよっぽど複雑よ。エネルギー変換効率は最低だけど」 ──シュミレーション開始。 地形データと家具などの配置より、人が食料を備蓄する場所を計算。 ==over== オフィス内の机の引き出しの中。 「あったわ」 引き出しを開ける。16本ある栄養スティックのうち1つ取り出す。 「はい」 「おっと、食いもんは投げるもんじゃねえぞ」 「それ、半分ずつ分けてあげて」 「お前は食わねえのか?」 「まだ残ってる」 15本ある栄養スティックのうち1つ取り出す。 「人が作ったものを食べるのは初めてね」 「そんなにうまかねえだろうよ」 ──味覚センサー上に物体を検知。 味覚評価42.5『焼きおにぎり風味』 ──口腔ユニットにエネルギーソースを確認。 ……バイオリアクター内、充填完了。発電シーケンスを開始。……発電効率86% 「味は普通の焼きおにぎりって感じね」 「じゃあ普通の焼きおにぎりとどっちがうまい?」 「食べた事ないからわからないけど、データベース上の平均よりはこっちのほうが美味しくないらしい」 「へえ、どっちも食えないからわからないけどそういうもんか」 「どうでもいいけど、そろそろ寝ときましょう。明日になったらここを出るわ」
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