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「なあミラ」
「なに?」
「あの、今はどこに向かって歩いてるんだ?」
「山よ」
「いや、わかる。それはわかるんだ」
「なんなの」
「何で山に向かって歩いてるんだ」
「スノーボードをやってみたいと思って」
「す、スノーボード……?」
──過去ログファイルを参照
・スノーボード
細長い板の上に乗り、斜面を滑るスポーツ。市街地のスポーツ用品店にて発見。
本来人間にとって標高の高い山は、低気温や滑落、ホワイトアウトによる視界不良など、危険が多い。しかし、スポーツ用品店の記述を見る上ではその危険については一切示唆されず、むしろ楽しいものとして評価されていた。
「イブは知ってるの?」
「知ってるも何も……有名なスポーツだ」
「……私は、知らなかった」
「まあやるのは構わないと思うが、博士はどうするんだ?」
後ろを振り返ると、博士が鳴いた。
「小屋かなんかで、ストーブを焚くわ」
「なんか風情がありそうだな」
「風情……そうね」
──「風情」の演算に失敗。
「人は山に、それを求めたのかしらね」
「……山には危険がつきものだ」
「そうね。生身の人間がいるべき環境じゃないわ」
──前方300mに生体反応を確認。
「……噂をすれば」
「う、嘘だろ……」
──生体スキャン開始
エゾヒグマ 推定17歳
ネコ目クマ科クマ亜科クマ属に分類される。
この個体は体長2.46m、体重推定513kg。オス。
バイタルは良好。栄養状態も概ね良好。
バイオエネルギーソースとして、35回に分けて一度で約92時間分の稼働電力を得られる。
「……こっちに気が付いてるわね」
「流石にまずいぞ、勝てるのか?」
「体力勝負なら、五分五分って所かしら」
ヒグマはこちらを向いて低い鳴き声をあげる。
「うわヤバ……走ってきたぞ!!」
──『危険作業:衝撃に備えた下半身の構え』を実行。
──『救助:巨大物の受け止め』を実行。
──『柔術:対象物の重心を捉えた予備動作』を実行。
「大丈夫よ、なんとかなる」
「く、食われるぅ!!」
──人工筋肉の出力を72%に設定。
──油圧式レッグユニットの出力を46%に設定。サブユニット「アウトリガー」を展開。
──エアロアーマーを体軸安定補助モードで展開。
「……来るわよ」
──アプリ『アンドロイドレスラーMk3 グングニル』をスタンバイモードで起動。
「グオオオオオ!!!」
左アームに爪による殴打のダメージを検知。吸収率95%。組み合う。
「フンッ!」
右肘でクマの頭部を殴打する。
「いいぞ、押せ!!」
「フンッフンッフンッ!!!」
計4回。クマも負けじと、左肩に噛み付く。
「ぐあああああ!!!」
ダメージ吸収率98%。爪の攻撃を、少し前に出て両手で受ける。
「ああっ!!」
「み、ミラーーッ!!」
派手にふっとばされる。ダメージ吸収率94%。立ち上がる。
──『プロレスリング:ドロップキック』を実行。
「グオォッ」
「あちょおおおお!!!」
──『プロレスリング:抱え式バックドロップ』を実行。
「いいぞ、ミラ!トドメを刺してやれ!!」
ヒグマの頭部を掴み、立ち上がらせる。
左アームにより、ヒグマの首を捕縛。
体を曲げ、姿勢を極端に下げる。
右アームで腰回りを持ち上げる。
「おらあああ!グングニルバスター!!」
「グ、グオオオオオ!!」
──レッグユニットの出力を85%に変更。
──『プロレスリング:ブレーンバスター』を実行。
「決まったあああああ!!!」
──『レスリング:体固め』を実行。
「ワン、ツー、スリー!カンカンカーン!!」
「ふっ、勝負あったわね」
「ヒン……」
ヒグマは慌てた様子で立ち去る。
──『アンドロイドレスラーMk3 グングニル』を終了。
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