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ハルジオン
──人類滅亡暦52年。4月2日。午前7時12分。快晴。
スリープモード解除…………
「おう、起きたか。ロボット」
「あなただってドローンのクセに」
──周囲の環境状況を更新。
…………湿度72% 気温14℃ 気圧1004hpa
「んだよ、せっかくミラの飯を用意してやったのに」
イブは私に何かを差し出した。
──イブの物品の提示。スキャン開始。
…………木の枝に連続で串刺しにされた5匹のキリギリス。摂氏およそ300℃の直火で加熱されていて、所々に炭化が見られる。
エネルギーソースとしての評価:良。
塩化ナトリウム、石英等の不純物が見られるが、バイオエネルギーソースとして摂取するに問題なく除去可能。
「虫じゃなくて、りんごのサラダがよかったなぁ」
「作っておいてもらって文句言うなよ。明日作ってやるから」
「ありがと」
私はキリギリスを歯ではさみ、噛み千切る。
──味覚センサー上に物体を検知。
評価ポイント8.2『人の喫食に適さない』
──口腔ユニットにエネルギーソースを確認。
……バイオリアクター内、充填完了。発電シーケンスを開始。……発電効率74%
「そういえばよ、ミラ。昨晩もなんか寝言言ってたみたいだが」
「そ……、なんて言ってたの?」
「確か『中華丼うめ〜』って言ってたな」
──スリープ中のログファイルを参照。
検索中…………完了。
スリープ中に以下のファイルのバックアップを実行。
・『制圧型警備プログラム:PRT3』
正常にインストールしました。
・『スキャニングデータ』
アロエ:低効率のエネルギーソースとして使用可能。水分を多く含む。加工することでヒトの食用になり、軟膏などの傷薬としても代用できる。
・『文書』滅亡前の学習塾跡地にて、理科の教科書より参照。
ジュラルミン:アルミニウムに銅などを含んだ合金。アンドロイドのボディや航空機、精密機器のケースなど、多岐にわたり使われる。
・『会話ログ』
ミラ:珍しい植物
イブ:知ってるぞ。アロエだな
ミラ:どうして知っているの?
イブ:忘れたのか?俺は医療用ドローンだ
ミラ:回りくどいわ、教えて
イブ:この植物を使って、軟膏を作ったりするんだ。まあ、俺達には必要の無い事だが
ミラ:ふうん。教えてくれてありがと
「からかってるつもり?イブこそ、たまには寝たら?」
「俺はあんたと違って省エネだからな。昼の太陽光発電だけで事足りるんだ」
──過去のログファイルを参照。
検索中…………完了
・ミラの発電システム
ヘアユニットの太陽光発電、及びバイオリアクターの2種類にて発電が可能。
==ERROR==
ヘアユニットの一部断裂により、発電効率が54%に低下。
・ヘアユニットの断裂
他アンドロイドとの戦闘時、24%が破損。その後ヘアユニットが長い事によるデメリットを考慮し、全体の40%を追加で切除。現在は、「極地工作員アンドロイド:アマゾネスMkⅡ」から鹵獲したバイオリアクターにて代替の電力を賄っている。
・イブの発電システム
飛行ユニットを搭載していない小型ドローンの為、低い電力で効率よく稼働が可能。
3時間の直射日光で最大6日間連続稼働が可能。
「そうやって調子に乗ってるから、2ヶ月前の長雨の時みたいに動けなくなるのよ」
「長雨を付け狙う盗賊がいなけりゃああはなってなかった」
──過去ログファイルを参照。
検索中…………完了
・長雨の盗賊「業務用汎用アンドロイド:ウェイトレス2000」他5体の襲撃
「業務用汎用アンドロイド:ウェイトレス2000」2体、「建設業サポーター:はつるんです」2体、「自動車メンテナンスロボ:EZF」1体、「特攻歩兵アンドロイド:BM-δ」1体の計6体からなる野生化アンドロイド小隊。
雨による視認性の低下、及びBM-δにプリインストールされている「アンドロイド相互検知ジャマー」がすべての他アンドロイドにコピー、インストールされていた為、発見に遅れが生じた。
被害は頭部ユニットの45%の欠損、及び右手ユニットの破損であったが、記憶領域に被害は及ばなかった。
戦闘時時間:17秒
襲撃してきたすべてのアンドロイドを破壊後、パーツを回収。
ウェイトレス2000の右手ユニットを「家庭用お手伝いロボ:ミラMk-Ⅲ」に代用。頭部ユニットはBM-δと取り替える事で強度の向上を行った。
「長雨はほとんどのアンドロイドにとって天敵だってのに。あいつら、風力発電所から電源を手に入れるとかこすい事しやがって」
「私からしたら、あんなの大したこと無い野良ロボットだったけど」
「俺だってな、ミラみたいなボディがあればあんな奴ら余裕でボッコボコにしてやったよ」
「イブが以前ボッコボコにされて、記録媒体しか残らなかったからそうなってるんじゃない」
「あー、まあな」
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